クライアントとのコミュニケーション①「体験時のカウンセリング」
みなさんのパーソナルトレーニングや、ピラティスレッスンを受けに来るお客様にはどんな目的や動機が多いでしょうか?
SNSを見て「自分の悩みを解決してくれそう」と期待を持って受けに来る方から「チラシを見た」「体験料が無料だからきた」「看板を見た」「他社より安かった」「ホームページを見た」などお客様が皆さんのトレーニングやピラティスを体験しにくるきっかけは様々です。
そしてお悩みも
・自分の姿勢や体重、痛みを改善したいという明確な動機
・何となく痩せたい、運動をしたいという不明確な動機
など目的がはっきりとしている場合と、何となく体重や健康を気にして来たけど言葉にはうまく表せないといった方もいます。
そのため、私たちトレーナー、インストラクターは「悩みを解決する」と共に「目的や目標を明確にする」といったお客様の将来を計画することも必要になります。
今回はお客様とのコミュニケーションの中でどのように目的や目標を明確化し、具体的なセッションの方針、計画を立て、お客様の行動変容を促すかを認知行動療法の観点からご紹介していきます。
行動変容の4つのステップ
認知行動療法とは、思考、記憶、想像などの「認知」を直接変え、人の問題、行動の解決に用いる方法であるとされています。
この認知を変え、問題、行動の解決を達成するためには
・問題の具体化
・問題に対する状況把握
・具体的な実施と計画
・効果のフィードバックと強化
をお客様とのコミュニケーションの中で確立することが大切です。
では、1つずつ見ていきましょう。
ステップ1「問題の具体化」
ここでは、今日ここに来たきっかけから、どんな問題を解決したいのかをお客様自身に考えてもらい言葉に出すことが大切になります。
一般的にはお客様の「主訴」にあたるところになりますが
・どんな悩みがあるのか
・なぜ今日来たのか
・悩みを解決するためにこれまでに行ったことは
などを「より具体的」に表します。
お客様の抽象的な悩みを、トレーナー自身が勝手に解釈するとゴール設定において相違が生まれますので、ここで大切なのは「具体的で誰が聞いても誤解しないように表現する」ことです。
例えば、最近腰が痛くて病院に行ったら、体重が腰への負担となっているから体重を落としてくださいと言われたので、ダイエットしに来ました。というお客様が来た時に「ダイエットが目的」と判断してしまうのか、「腰が痛くなくなれば体重はそこまで気にしませんか?」という質問するのでは、ゴール地点が大きく変わります。
おそらく「まずは腰が痛いのを治したくて、できれば体重も落としたい」という答えが返ってくることが多いと思います。
この時点で、体験時にダイエットのための食事管理や運動頻度の説明に時間を費やすのか、腰痛の改善のためのエクササイズ、日常生活指導に時間を使うのかゴールが異なり、お客様が腰痛をまず改善したいと思っているのであれば、まずは腰痛が改善するという未来が見えることが大切です。
そのためまずは、お客様の主訴、問題、目標、目的を具体的に取り上げ、トレーナーとお客様との間で相違が生まれないよう丁寧に確認していきましょう。
ステップ2「問題に対する状況把握」
お客様の主訴や問題、目的、目標を明確化させることができたら次に「問題に対する状況把握」を行っていきます。
・いつからその悩みを抱えているのか
・なぜその問題や悩みが生まれたのかに対するお客様の考え
・専門的な評価
を行い、お客様が抱える問題に対してトレーナーに任せきりになるのではなく、お客様が自ら自覚し行動を起こすきっかけを作っていきます。
先ほどの腰痛を例に考えると
・腰がいつ頃から痛くなったのか
・どんなことをすると痛いのか
・痛くなった時にストレスや体重、環境の変化はあったのか
を聞いてみると必ず痛みの背景が見えてきます。
例えば、仕事がテレワークになり動くことが減ってストレスが増えた。そして腰が痛くなって体重も増えた。といった背景が見えてくると、体験での腰痛の変化だけでなく、自宅で自ら行わなければいけないことをお客様自身で気づくことができてきます。
実際に週一回ほどのパーソナルトレーニング、ピラティスだけでは効果が持続しない場合も多くあるため、お客様自身で問題に気づき、改善しようと行動を起こしてもらうことは、効果の底上げやお客様の満足度向上にも繋がります。
そのため、主訴を明確化させたら、主訴の現状や背景の深堀、適切な評価をしっかり行っていきましょう。
もちろん現状の把握の一環として「適切な姿勢や動きの評価」が大切なのは大前提ですので、トレーナー、インストラクターとしての評価スキルも上げていきましょう。
ステップ3「具体的な実施と計画」
ここからは実際に明確化されたお客様のお悩みを解決するためのトレーニング、ピラティスセッション考察、実行を行います。
体験時のセッション構築やエクササイズの見極めといった「トレーナー、インストラクターとしての技量」についてはこちらをご覧ください。
ステップ4「効果のフィードバックと強化」
実際の体験セッションでお客様の主訴が改善したら、評価による分析、エクササイズの提供は正しかったとして、その変化が確かなるものになるように強化をします。
腰の痛みが改善するといった効果はお客様が行動を続ける1番の推進力となります。
だからこそ学び、実践するといった専門家としての努力は必須であり大前提になりますね!
もし目立った効果や、お客様の満足度が得られなかったという場合は
・お客様の主訴、目的、目標と相違があった
・適切な評価、エクササイズの提供ができていなかった
・評価に対する仮説が正しくなかった
ことが考えられます。
お客様の主訴、目的、目標と相違があった場合はお客様とのコミュニケーションに問題があったと判断できるため、トレーナーとしてのスキル以前に、もう一度ステップ1から振り返る必要があります。
また、望ましい効果が得られた場合は、それで満足ではなく、効果を持続し、主訴を改善するために
・自宅でのエクササイズや生活指導
・次回のセッションまでの間隔
・主訴改善までのおおまかな計画
を行います。
このサイクルを定期的にしっかりと回し、お客様の行動変容を促すことでお客様とのコミュニケーションはスムーズとなり信頼関係を気づくことができます。
具体例
腰痛を例にまとめてみましょう。
A:お客様
T:トレーナー
T「今回はどんなお悩みでお越しいただいたのか教えていただけますか?」
A「腰が痛くて病院を受診したら、体重が腰への負担となっているから体重を落としてくださいと言われたので、ダイエット をしに来ました。」
T「腰が痛いというのがきっかけだったのですね。体重を落とすことで関節への負担が減ることはもちろん考えられますが、エクササイズによって腰痛を改善すること、と体重を落とすことでの効果を期待するのではどちらに興味がありますか?」
A「まずは腰痛をどうにかしたいです。ただ、年齢とともに体重が増えてきているのも気になるので、最終的に体重や体型も変えていきたいです。」
T「では、まず今回は腰痛の原因を姿勢や動きの評価から考え、エクササイズを行っていこうと思いますがいかがですか?」
A「はい、お願いします。」
T「それでは、腰痛の背景をもう少しお聞きしたいのですが、いつ頃から腰は痛くなりましたか?また、腰が痛くなる前後で環境やストレスなど変わったことはありますか?」
A「もともとデスクワークで腰の疲労感などは感じていたのですが、半年前からテレワークになり外に出ることも減ったタイミングでじわじわと腰が痛くなるようになりました。テレワークによって家で仕事をするのがストレスで、運動量などは減ってしまっているのですが、食べる量は増えました。」
T「デスクワークからさらにテレワークになってしまったんですね。人と会わない、外出がないことによるストレスも案外大きいですよね。」
A「はい、通勤があった時は歩く距離も多く、休日も活動的だったのですが、今は気持ち的にも疲れています。」
T「では、運動量やストレスといったAさんの生活習慣も腰痛に関わっているかもしれませんね。今回は、ここで体の評価、エクササイズをしっかり行い、効果を見てみましょう。そして終了後にAさんの生活習慣で変えたいことや挑戦していきたいことを一緒に考えていきましょう。」
A「はい、やはり、ここで運動をするだけではなく、自己管理も必要なのですね。お願いします。」
評価・エクササイズ後
T「腰の痛みや動かしやすさはどうでしょうか?」
A「来た時より軽くなった感じがします。」
T「1回でのエクササイズでこのように変化が起きるということは、日常生活での姿勢や動きも同じようにすぐに体を悪い方向へ変化させてしまいますので、ご自宅でのエクササイズや、施設でのエクササイズを定期的に行っていきましょう。」
A「ありがとうございます。どのくらいの間隔で運動を行えばいいでしょうか?」
T「腰の痛みがなくなる、痛くなってもセルフエクササイズでリセットすることができるようになるまで、まずは短い間隔でお越しいただくのがいいかと思います。週に1回または2回お越しいただき、残り週1~2回ご自宅でのエクササイズも行っていただくことが最短だと考えられますがいかがでしょうか?」
これはあくまで一例となりますが、お客様自身で問題を明確化し、トレーナーは何が必要なのかご提案する。そして仮説に沿ったエクササイズを処方し、効果を測定する。効果測定をもとに長期的な計画を立てていくというお客様の行動変容を促すコミュニケーションが大切となると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
参考
・足達淑子「ライフスタイル療法 生活習慣改善のための行動療法」第4版 医歯薬出版株式会社