関節可動域(ROM障害)に対する運動療法

運動指導者の評価・介入において必須となるのが関節可動域(ROM : range of motion)です。

そして関節可動域の改善も現場で必ず求められるもので、その重要性は皆さん重々ご理解されていることかと思います。

実際に理学療法士協会の調査でも、治療を行ううえで問題となる障害に「ROM障害」を挙げていますね1)

改めてROM障害に対する運動療法の知識は必須です、今回はそんな関節可動域に対する運動療法でどう立ち向かうのか、筋腱由来のROM制限に対して、どんな種類があるのかを実用例も含めて解説していきます。

理論的な部分を咀嚼すれば、様々なシーンで応用できますので、ぜひご活用ください。

運動療法として過緊張筋を抑制するには、中枢神経系の抑制作用を利用します。

  • 1a抑制(相反神経支配)
  • 1b抑制(自原抑制)
  • 反回抑制
  • 協働筋抑制

1つずつ紹介していきますので、現場で応用しましょう。

目次

1a抑制(相反神経抑制)

相反神経支配
関節の動きを円滑にするために主動筋が収縮したときに拮抗筋が弛緩する神経機構を相反神経支配という。

相反抑制を利用して動作を収縮させることで、拮抗筋が抑制します。

相反抑制のポイントはこの通り

  • 抑制したい筋の拮抗筋の収縮を促す
  • 拮抗筋の収縮を最大限行うため代償動作は防ぐ
  • 5〜10秒かけて丁寧に収縮を促す
  • エクササイズの前後で筋長テストを行い変化を確認する

運動療法の中で取り入れやすく、特にマシンピラティスとの相性が良いと個人的には感じております。

1a 抑制を用いた大腿筋膜張筋の抑制

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【目的】
大腿筋膜張筋の抑制 

【手順】
①体育座りとなる
②ボールをももを挟み、肘と膝をつける
③骨盤を後傾し、ボールを潰し腹筋と内転筋を感じる

【注意点】
・腹筋の収縮感の欠如
・内転筋の収縮感の欠如

中殿筋の促通後、Over testにて大腿筋膜張筋の緊張が抑制されているかどうか確認してみましょう。

1b抑制(自原抑制)

1b抑制(自原抑制)

筋肉と腱の移行部分に「ゴルジ腱器官」と呼ばれる器官があり、この器官に刺激が加わることで伸ばされた筋肉が緩みます。このような反応を1b抑制と呼びます。

一般的なストレッチで筋肉が緩むのはほとんどが1b抑制の反応です。

筋肉や腱が伸ばされ、その器官が刺激を感知して神経に伝えます。神経を伝わった刺激は背骨を通る神経である脊髄(せきずい)を介して筋肉が緩むような刺激として戻ってきます。

ただそのストレッチにもいくつか種類があり現場で効果を出すには、コツが入ります。また別記事かセミナーで解説します。

1b抑制を用いた大腿筋膜張筋の抑制

【目的】
大腿筋膜張筋の抑制

【手順】
①ハーフニーリングポジションとなる
②伸ばす側の股関節を後方に置く
③股関節伸展・内転・外旋を確認する
④大腿筋膜張筋の伸長を感じる

【注意点】
代償動作やそもそも開始肢位を取れるための関節可動域を持ち合わせていない可能性もある

中殿筋の促通後、Over testにて大腿筋膜張筋の緊張が抑制されているかどうか確認してみましょう。

反回抑制

反回抑制

脊髄にあるレンショウ細胞と呼ばれる細胞の働きにより、筋肉が最大限収縮することで、収縮後に筋肉が緩むという現象を反回抑制という。

これも現場で即時的に活用できる方法です。

最大限収縮を促通するので、その後の運動時に促通した筋の知覚が向上しすぎることによる弊害があるなと感じておりまして、私個人として多用はしておりません。

反回抑制を用いた大腿筋膜張筋の抑制

【目的】
大腿筋膜張筋の抑制

【手順】
①シンボックス肢位をとる
②股関節を屈曲・外転・内旋位の状態を保持
③股関節をさらに外転する(床から膝を離す)
④大腿筋膜張筋の収縮を感じる

【注意点】
代償動作やそもそも開始肢位を取れるための関節可動域を持ち合わせていない可能性もある

中殿筋の促通後、Over testにて大腿筋膜張筋の緊張が抑制されているかどうか確認してみましょう。

協働筋抑制

協働筋抑制
主動作筋の中でも単関節筋を活性化させ、協働筋である多関節筋の抑制を狙う方法

例えば、股関節外転筋である中臀筋を活性化すると、同様に外転筋かつ多関節筋に該当する大腿筋膜張筋が抑制されます。

大腿筋膜張筋にお悩みのクライアントは現場で非常に多いですが、この理論から紐解けば、日常的に中臀筋の機能不全があり、結果として大腿筋膜張筋の過活動が生じている可能性も考えられるわけです。

単関節筋の賦活は臨床でも確実にポイントととなることです。

協働筋抑制のポイント

  • 単関節筋を最終域で等尺性収縮を促す
  • 目的とした筋を最大限収縮させるため代償動作は防ぐ
  • 5〜10秒かけて丁寧に収縮を促す
  • エクササイズの前後で筋長テストを行い変化を確認する

協働筋抑制を用いた大腿筋膜張筋の抑制

【目的】
大腿筋膜張筋の抑制

【手順】
①側臥位で下側の股関節、膝関節を屈曲位にする
②股関節を伸展位に他動で外転
③中臀筋の収縮感の知覚を確認
④股関節を自動で外転

【注意点】
大腿筋膜張筋が優位の場合、股関節外転時に骨盤の前傾、股関節の屈曲などの代償が散見されますので、実施者は十分に注意すること。

中殿筋の促通後、Over testにて大腿筋膜張筋の緊張が抑制されているかどうか確認してみましょう。

参考文献

1)日本理学療法士協会:理学療法白書、2016

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