
前捻角をピラティスの味方に!

大腿骨前捻角については、勉強されている皆さんはご存知でしょうが、じゃあ実際にそれを現場でどのように考え、活用していくのかまでをご理解いただいておりますでしょうか?
例えば「過前捻」のクライアントさんを担当するとして、
ピラティスでどのような事を注意したら良いでしょうか?
パッと思い浮かばない場合、今回の記事は非常に有用となります。
このような方にオススメ
- 大腿骨の前捻角が違うと、どのような影響を及ぼすか?
- レッスンではどのようなことに気を付ければよいか?
ピラティスやヨガといったボディワークは大きな股関節の可動域を有する動作も非常に多いため、大腿骨前捻角を理解していないと、怪我をさせてしまう可能性もあるため、非常に重要な知識ですのでこの機会にぜひ学び、明日からの現場でご活用ください。
目次
大腿骨前捻角とは?

大腿骨前捻角とは、大腿骨頸部と大腿骨内顆と外顆を結んだ線とで測れる、大腿骨頸部と大腿骨体の捻れの角度の事を指します。
平均角度は、およそ10~20度ほどと言われており、これよりも前捻角が大きい事を過前捻、小さい事を後捻と呼びます。
具体的に過前捻や後捻だった場合、何が起きると思いますか?
膝蓋骨が正面を向いている時、正常の股関節は中間位となっています。しかし、過前捻の方は、正常の前捻角より外旋方向に捻じれているため、膝蓋骨は正面を向いているけど、股関節は外旋位になっています。
また、後捻の方は、正常の前捻角よりも内旋方向に捻じれているため、膝蓋骨は正面を見ているけど、股関節は内旋位になっています。
■前捻角正常:股関節中間位
■過前捻:股関節外旋位
■後捻:股関節内旋位
この膝蓋骨は正面を向いているけど、股関節は外旋位になっていたり、内旋位になっているというのが前捻角の影響を理解するにあたって一番重要なポイントとなります。
つまりは内旋だから悪、外旋だから悪、可動域を有していないから悪が絶対ではないというわけですね。
ここを理解していると、前捻角の異常が股関節可動域にも影響が出てしまうというのがご理解いただけると思います。そしてピラティスやヨガインストラクターさんはどうしても正常可動域(参考可動域)を求めてしまいがちですが、そもそも骨的な問題で、正常可動域を有していないことも考慮したレッスンを組み立てなければならないということになります。
前捻角と可動域は安全かつ効率なレッスンや中長期的なプログラムを組み立てるうえで欠かせない知見です。
前捻角が大きいと他動的な股関節内旋可動域が大きくなり、股関節外旋可動域が小さくなります。前捻角が小さいと他動的な股関節外旋可動域が大きくなり、股関節内旋可動域が小さくなる。
Chadayammuri V, Garabekyan T, Bedi A, Pascual-Garrido C, Rhodes J, O’Hara J, Mei-Dan O. Passive Hip Range of Motion Predicts Femoral Torsion and Acetabular Version. J Bone Joint Surg Am. 2016 Jan 20;98(2):127-34.
過前捻では、股関節中間位が外旋位となるため、最初から外旋しているため、外旋可動域が小さくなります。後捻では最初から内旋しているため、内旋可動域が小さくなります。
さあ、ここまでイメージはできておりますでしょうか?
過前捻角は股関節前方にストレスが増える

大腿骨前捻角が過前捻になっていると、股関節前方にストレスがかかりやすくなります。これは上述したように、過前捻の人は膝蓋骨が正面を向いている時に股関節は外旋位になっているため被覆率に影響を及ぼすためです。
股関節が伸展位の時に外旋位になると大腿骨頭は前方を向き股関節の前方が不安定になるため、腸腰筋や大腿前面の神経などの股関節前方にある組織にストレスがかかりやすくなります。
股関節が内旋位を呈しているからといって、中間位を指示することで、股関節は外旋位となってしまい、前方ストレスは増大してしまうことから、股関節前方を痛めてしまうリスクがあります。
この章のまとめ
大腿骨が内旋位になっているから悪ではなく、それは過前捻による機能的代償の結果かもしれない。
後捻は屈曲時に前方インピンジメントしやすい

通常、股関節を屈曲していくと約90°で下前腸骨棘と大腿骨頚部がインピンジメントすると言われています。
股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。
吉尾雅春ら 「新鮮凍結遺体による股関節屈曲角度」 理学療法学Supplement 2003(0), A0922-A0922, 2004
前提として、正常の前捻角の人であっても股関節を内外旋中間位で屈曲していくと、屈曲は90°程度までしか曲がりません。そして大腿骨が後捻している人は、膝蓋骨が正面を向いていても股関節は内旋位になっていましたよね?
それと股関節屈曲角度にどのような影響を及ぼすと思いますか?
答えは簡単です。
A .後捻の方では膝関節を正面を向くことで、股関節が内旋位となりますので、その状態で屈曲させるわけですので、より浅い屈曲角度で前方インピンジメントを生じてしまう可能性があります。
ピラティスで例えるならば、スパインストレッチなり長座のポジションを呈するエクササイズが多いと思いますが、このことを知らずに、後捻している人に対して、闇雲にエクササイズを指導してしまうと股関節の前方関節唇を損傷してしまうリスクが高まります。

さらに言うならば
「股関節が硬いですね」
「腸腰筋が弱いですね」
とより屈曲を強要してしまうことの無意味さもご理解できるところかと思います。

正常の前捻角であっても股関節を屈曲する際には、インピンジメントを避けるために軽度外旋位で屈曲する必要がありますが、大腿骨が後捻している人は、正常の前捻角の人と比べて、より股関節を外旋をさせながら屈曲させる必要があります。

まとめ
■膝蓋骨が正面を向いている時、過前捻では股関節外旋位になっており、
後捻の人は内旋位となる。
■過前捻は、伸展・外旋位になりやすく股関節前方ストレスが増大するためエクササイズ選択や代償に注意する必要がある。
■後捻は、股関節屈曲時に内旋位のため、90度より浅い屈曲角度で前方インピンジメントが生じやすい。