呼吸の概論

ここ最近ようやく「呼吸」について関心が高まっているように思えます。

呼吸が人体の重要な機能であることは疑いの余地がありません。

代謝に必要な酸素を供給し、これらの反応の副産物である二酸化炭素を除去することで生命を維持します。

しかし、呼吸には、空気の換気や酸素二酸化炭素の維持以外にも機能があります。

呼吸は運動制御と姿勢の安定性に影響を与え、生理学的および心理的調節においても役割を果たし、はたまた呼吸は、自律神経系、循環系、化学的調節、代謝などの他のシステムの恒常性維持機能に影響を与えます。

つまり姿勢、動作、運動パフォーマンス(実行機能〜重心移動)などの身体的側面はもちろん、肩こり、腰痛といった慢性疼痛から睡眠や精神衛生面上の問題の改善及び良好な状態を保つためにも欠かせないのが「呼吸」です。

しかし「呼吸」は曲解されて浸透している印象を私は持ちます。

例えばいまだにピラティスは胸式呼吸、ヨガは腹式呼吸を意識するとメソッドでは唱えらております。

なぜ本来無意識に行われる呼吸を意図的に意識し、尚且つ、胸式、腹式に分けることをしようとしてしまうのかが私には論理的に分かりかねます。

肋骨が開いている方では腹式呼吸をしようにもできませんし、では腹式呼吸しかできないことが体にとって良いというわけでもございません。

ここは呼吸のレッスンを行う以前の問題で確実に処理し、ご自身で納得していただく必要があるため、少しだけ深掘りします。

目次

胸式呼吸と腹式呼吸はどっちが正しいのか

呼吸とは体外から主に酸素を取り込み、体内の二酸化炭素を排出する事です。

吸い込んだ空気を肺に溜め込む際、肺を広げる方法は大きく分けて2つあります。

胸式
肺を覆う肋骨を広げたり、肋骨を引き上げることで、肺を広げる呼吸

腹式
肺の下にある横隔膜を下げることで、肺を広げる呼吸

一般的には正しい呼吸法というと、腹式呼吸が善で胸式呼吸が悪とされがちですが、たしかに安静時呼吸では横隔膜の上下動が伴った腹式呼吸が望ましいものですが、常に腹式呼吸だけが「正しいわけではございません

例えが胸郭が伸展した状態というのは強制的に胸式呼吸が誘発されています、この状態で腹式呼吸をしようにも物理的に非効率なのは惹起できますでしょうか?

例えば安静時なのに胸郭が伸展スタックし、胸式呼吸を続けていようものなら、当然ながら努力的な呼吸を強いられ、体は常に緊張状態となり、心身に背面の筋群の緊張してしまうことに繋がります。

反り腰は常にこの状態です。

呼吸の多様性

呼吸とは脳によって無意識に制御されているものでありその時々の状況、環境、必要性に合わせて変化します。

絶対的に正しい呼吸が存在するという事ではなく、着目すべきはリラックスするべき場面で荒い呼吸(努力時呼吸)しかできない状態から抜け出せないことです。

それは当然日常生活であれば慢性的な疲労、疼痛、姿勢で言えば反り腰の常態化が生じてしまいます。

胸式・腹式呼吸がどっちが良いのか論争に終止符を打ちたく、私はあえて言い切りますが、その時々に最適となる呼吸法を無意識に選択できるための”能力”いわば”多様性”こそが最も必要とされる「正しい呼吸」と言えます。

胸式・腹式あえて分ける必要性はまるでなく、どっちもできた方が良いに決まっており、それは意図的に行うものでもなく、環境に脳が適応した結果として誘発されるべきものであるということは十分にご理解いただけたのではないでしょうか?

もう一度言います、大切なのは多様性です。

その時々の環境に依存するものです。

ここは非常に大切な呼吸の概念となりますので丸暗記する勢いで擦り倒しておいてください。

息を吸いすぎている

と話が脱線してしまいましたが、再び戻すとして

ここで正しい呼吸に絶対はないと述べましたが、安静時に限っては存在します。

それは「呼吸の量」と「呼吸パターン」です。

呼吸を深く学んでいくうえで、あえて正しい呼吸をあげるとしたらこの2点が環境によって適応できる能力を定義付けできます。

一般的に良い呼吸を心がけようと深く深呼吸しますが、それは大きな間違いで、大抵の人は知らないうちに適切な呼吸量から逸脱し、2〜3倍ほど過剰に呼吸をしていると言われています。つまりほとんどの人が呼吸過多、言い換えれば「息の吸いすぎ」です。

当然息を吸い過ぎているということは、体は空気を拒み、気道を狭くし、体が酸素を取り込む能力を低下させ、血管が細くなり、全身に対する酸素供給量が減少します。

結果として冒頭に上げた症状を招くことになるのです。

つまり呼吸エクササイズのエントリーポイントは「呼吸量の減少」「吐くこと」つまりは「呼気に関わる筋群の活性と吸気に関わる筋群の抑制」ということになります。

呼吸と姿勢

姿勢と呼吸は切っても切れない関係にあります。

姿勢不良では呼吸機能の妨げとなり、呼吸機能が悪ければ姿勢不良となってしまいます。姿勢とは脳(≒中枢神経系)が制御(コントロール)しているもので、筋力や意識的なもので形成されているわけではございません。

「背中の筋肉が弱いから猫背になる
「胸の筋肉が硬いから猫背になる」

といった認識は大きな誤りです。

例え一見それらしい主張に聞こえますが、理論的に否定できます。例え硬い部分や弱い部分を何かしらのアプローチを行ってもその場限りで次の日には元通りになっているかと思います。

ここで姿勢形成に対する中枢神経系の細かな解説は割愛しますが、端的に言えば脳に対する燃焼は酸素であり、その酸素が供給されていないということは、体は緊張を起こしてしますといった流れです。(実際はこの経路も前頭葉など非常に複雑であり専門的になりすぎてしまうのでここではかなりざっくり説明しています)

過度に緊張してしまった姿勢が長期間続くことで、筋群に偏りが生まれます。

それが反り腰つまり筋肉のインバランスは結果であって原因ではないという事になります。

呼吸を適正な状態に取り戻すことは、適切な安静時筋緊張を獲得できることと同義です、つまりはリラックスを上手に取り込める体です。リラックスができるから私たちは安静時に、良い姿勢を保持できる素地ができると思っていただいて問題ございません。

横隔膜と呼吸

呼吸筋としてのメインで働くのが横隔膜です。

横隔膜は、静止時呼吸の70-80%の仕事量を担うとされ、残りの20-30%は斜角筋、胸鎖乳突筋、外肋間筋、胸骨周辺の肋間筋が担うとされています。1)

横隔膜は胸とお腹を分けるように存在する筋肉で、情報では肺や心臓、下方では肝臓、その他では肋骨、腰椎にも付着しています。2、3)


息を吸うフェーズである吸気では横隔膜が求心性収縮をすることによって下がり、肺内圧が下がり、その結果、空気が肺に入ってきます。


逆に呼気では横隔膜が弛緩することにより上がり、肺内圧は上がります。その結果、肺の空気が外に押し出されて息を吐くことができます。


横隔膜の収縮と弛緩を繰り返すだけで呼吸ができるということです。

ただこの横隔膜がうまく働かない環境があります。それが肋骨の外旋(肋骨が開くこと)です。

肋骨の外旋と反り腰はセットで起こります。そしてそこには必ず呼吸が関わってくるということです。

次項で詳しく解説します。

正しい呼吸に必要なZOA

正しい呼吸に必要となるのが横隔膜によるアーチ(ZOA)の形成です。

ZOA:Zone of Apposition
息を吐いた時の横隔膜のアーチの頂上から息を吸った際に平らになるまでの動く範囲(横隔膜の肋骨縁近くから横隔膜のドームを形成する肋骨角まで4)

ZOAの消失とは、何なのかというと先ほど出てきた「肋骨の外旋」です。

先述にあった横隔膜が働かない環境のことです。

横隔膜とは肋骨にドーム状に付着することから、その形状に依存する筋肉です。肋骨が開いてしまえば、ZOAは消失しますし、ZOAが消失するということは努力的な呼吸が常態化するということです。

つまりZOAの消失は腰の反りを誘発してしまいます。

「卵が先かニワトリが先か…」の話ですが、ZOAが消失しても姿勢は崩れ、姿勢が崩れてもZOAは失うといった同様の結果が待っています。

肋骨がきちんと閉じている時、横隔膜はしっかりと上下します。(ZOAが大きい)

しかし肋骨が開いているときは、横隔膜が十分に上下せず、(ZOAが小さい)適切な呼吸はできておらず、呼吸を反復するたびに横隔膜をメインとするわけではなく、その他の呼吸補助筋群が頑張るわけです5)

現代のストレス社会では横隔膜が上下せず、緊張したポジションになったままで暮らしている人は非常に多いのです。横隔膜が収縮したまま固まってしまっている人は、息を吐いても横隔膜がなかなかに上がらないため、次に息を吸おうと思っても、すでに下がっているため、吸えません。

ではどうなっているのか?そのまま吸えないのなら死んでしまいますが、そうならないのは横隔膜を下げる以外の方法で肋骨を持ち上げてスペースを広げて空気を入れているからです。

それらが呼吸補助筋群の頑張りにより、胸部を引き上げたり(広背筋を使い腰を反りつつ)、鎖骨を上げたりすることによって胸郭にもしくは肺に空気が入るスペースの容積を増やす代償が生じています。

呼吸補助筋群は主に胸鎖乳突筋斜角筋などを指し、つまり肩を上げ、腰を反り、肩を内側に作用する筋がメインに働いています。

このような代償による呼吸が毎日2万回も行われていたら、腰を痛めやすくなったり、肩が凝りやすかったり、姿勢が悪くなったりしてしまうのは容易に想像がつきますよね。

呼吸が適切ではないと、いやここではもうZOAが適切ではないとと言い換えても十分に問題なく理解できているでしょうからあえてガンガン使いますが、ZOAが消失しているということは、肩は凝るし、腰は反るし、巻き肩を誘発していることと同義というわけです。

呼吸機能を改善するには、このZOAを最大化する訓練が重要になります。

ZOAのチェック方法

方法
息を吐いた時に肋骨下角が閉じ、内下方に下がっているか?

ZOAとIAP

ZOAの最大化は、体の安定性の向上にも物理的に貢献しています。

横隔膜は吸気の際に下がり、肺を減圧し、外気を取り入れ、呼気時には上がり肺に加圧し空気を排出します。

この上下の動きに伴い、腹腔内圧(IAP:Intra-Abdominal Pressure)も向上します。

胸の周りには肋骨に囲まれていますが、腰の周りには何も守るものがございません、つまり安定性が低くなっておりますが、そこを補完するようにIAPの存在があります。

横隔膜が下がると腹部にある内臓器が上から圧迫され下方に移動しますが、それを下から押し返すように骨盤底筋群が働き、腹部の圧迫は高まり、これが骨格の代わりに体幹部の安定性の向上に寄与しているわけです。

ZOAが最大化され、また骨盤帯がそれを押し返す準備(骨盤の後傾)があることで私たちの体幹部の安定性は保たれていることがわかります。

しかし反り腰で骨盤が前傾していると横隔膜と骨盤底筋群は向かい合うことができずに、横から見たときにハサミが開いたような形になってしまい、体幹はインスタビリティ(不安定性)を招きます。

またスウェイバック姿勢で骨盤自体が前方に偏位してしまっても、やはり横隔膜と骨盤底筋群は平行であったとしても前後にずれているので、体幹は安定せず、腰痛の一因になるかもしれません。

呼吸と体幹

体幹が機能するとは、ただ単に腹筋の力が強いというようなことではございません。

先述でも触れていますが、横隔膜と骨盤底筋群が上下で平行に向き合っている状態を指します。

骨盤底筋群とは、骨盤の底(恥骨、坐骨)に広がる筋群であり、お腹の中にある内臓を支えるハンモックのような役割をしたり、骨盤の安定性を保ったりしています。

横隔膜と骨盤底筋群が上下で平行し向かい合い連動しています。

それらは意識的に連動しているということではなく、正しい位置関係にあれば必然と連動(吸気時、横隔膜が下がり骨盤底筋も下がる、同様に呼気時、横隔膜が上がり、骨盤底筋も上がる)するようになっています。

姿勢不良が常態化しているとどうでしょうか?

横隔膜と骨盤底筋群の関係で見れば、IAPは適切なものから逸脱し、体幹が機能していないことになります。

どうしても体幹が強いというと、「固める」といったイメージが先行してしまいがちですが(プランクなど)、この横隔膜と骨盤底筋が向き合ったポジションがあるからこそIAPが高まり体幹の安定が生まれるわけです。

決して筋が弱いから鍛えるではトレーニングは成り立たないことを覚えて帰っていただければと思います。

女性コンテスト選手は良い例なのではと思います。(ここでは悪い例という表現の方が良いかもしれませんが)

お腹の縦線を作ろうと腹直筋ばかり鍛え、トレーニング内容も基本的にはレジスタンストレーニング(筋トレ)ばかりに偏り、剛性を高め、自ら緊張を強くする内容です。

腹直筋はとても隆起し逞しいシックスパックが見えますが、肋骨は浮いて、腰は反り、胸郭が硬く、肋骨を下げようにも下げることができないシーンは散見されます。(実際にクライアントさんでも皆さんそうです。)

ここで言えるのは腹直筋は肋骨を引き下げる作用はなく、むしろ胸郭の下のつっかえ棒にような形となり邪魔をするということです。

美的観点としても「くびれ」を作りたいのならZOAの形成呼気に関わる腹横筋内腹斜筋の促通が有効となることは考えるまでもないでしょう。

また女性の場合、IAPによる内圧がお腹の一番下にある生殖器まで届かず動かされない状態が続いたり、骨盤が傾き骨盤底筋群が常に圧を受け続けている状態が持続化することで子宮や卵巣などの機能にも支障をきたす可能性も考えられます。

ZOAが形成し、しっかりと横隔膜が上下することで、その下にある内臓、消化器官の活動はもちろん、婦人科系疾患や不妊などの問題に関わってくる可能性もあるということです。

呼吸と自律神経

呼吸と自律神経には密接した関係があります。

横隔膜は自律神経からの信号をキャッチすることによって収縮を繰り返しています。


自律神経は主に2つに分けられ、交感神経副交感神経に分類されます。

交感神経


交感神経はFight or flight反応とも呼ばれ、日本語にすると闘争と逃走と呼ばれ、簡単にいうと、戦う時や逃げる時に使われる反応であり、自分の身を守るために体を緊張させることを指します。

交感神経優位の主な身体の反応

・心拍数上昇
・血圧上昇
・血糖値上昇
・呼吸数増加

副交感神経


副交感神経はRest or digest反応とも呼ばれ、日本語にすると休息と呼ばれています。


これも簡単にいうと、リラックスしている時の反応であり、身体が緊張せずリラックスできていることを指します。

副交感神経優位の主な身体の反応

・心拍数減少
・血圧減少
・消化能力向上
・呼吸数減少

この2つのバランスが乱れてしまうことで身体の不具合が生じてしまうということを耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

自律神経は私たちの意識しないところで休みなく働き、呼吸、血液の循環、消化、代謝、体温調節などを適切にコントロールしてくれています。

よくストレスフルな人は「呼吸が浅い」と言われますが、この呼吸が浅いという言葉はよく使われますが、非常に抽象的で曖昧な表現だと思ったことはございませんか?

呼吸が浅いとは?どういう状態を指すのか、具体化すると

  • 交感神経優位
  • 呼吸量が多い
  • 息が吐けない
  • 息の吸いすぎ
  • 心拍変動が小さい

となります。

交感神経が優位だから、呼吸が浅くなるのか?

呼吸が浅くなるから交感神経優位となるのか?

どちらも正しく、互いが影響し合っているのです。




人は緊張したり、不安になると呼吸数が増加します。

すなわち交感神経が優位の状態です。


日常的にストレスを感じ続けたり、運動不足による自律神経に対するストレス抵抗力が低下した人間ではどうでしょうか?

糸も簡単に身体は交感神経優位となり、常に緊張状態を強いられます。


つまり呼吸数の増加です。


身体が常に緊張し、酸素供給が滞るということは慢性疲労にもつながってくるわけです。

呼吸を適切なものへ導き、呼吸量を減少するということは自律神経の安定にも繋がるということになります。

呼吸の評価

ここからは現在の呼吸がどのような状態なのか、仮説を立てるべく評価を行っていきます。

まずは呼吸量の評価、介入が最優先事項となります。前述の通り現代人は息の吸いすぎ(呼吸過多)ている方がほとんどです。

なぜなのか細かく解説すると、酸素をできるだけ多く吸い込むことにそれほど意義はなく、大切なのは二酸化炭素の量だからです。

酸素を全身に行き渡らせるためには二酸化炭素の存在が必要不可欠であり、どれだけたくさん酸素を吸っていても適切な二酸化炭素の量がなければ身体全体に酸素が行き渡らなくなってしまうのです

ボーア効果

酸素と二酸化炭素の関係性を説明する上で必要なこととして、ボーア効果、そして酸素解離曲線を理解する必要があります。

ボーア効果
ヘモグロビンの酸素解離曲線が血液の温度やpH、炭酸ガス濃度によって移動する現象


酸素は赤血球のヘモグロビンと結合して、身体に酸素を供給していますが、この酸素をヘモグロビンから離すためにある物質が必要になってきます。それが二酸化炭素になるわけです。

呼吸を改善する目的は第一に全身に酸素を行き渡らせることです。浅く荒い呼吸からの脱却ですね。

そのためには二酸化炭素の量を増やし、酸素解離曲線を右に移動させる必要があるということです。

だから息は吸うのではなく、吐く、留める能力が必要なります。

「深呼吸をしましょう」

だけで深い呼吸ができ、リラックスができるということはまず難しいのです。

また、体内のpHは体内の二酸化炭素の量に依存します。


体内の二酸化炭素の量が多ければ、pHは下がり酸性に傾きます。ということは、酸素解離曲線はに移動し、酸素を全身に行き渡らせることができるということです。


逆に吸気量が多い(息を吸いすぎ)場合は、体内の酸素量が多く、二酸化炭素の量が少なくなってしまいます。


そうすると酸素解離曲線がに移動してしまい、酸素を全身に行き渡らせることができにくくなるということになってしまいます。

順序としてはざっとこのような流れです。

というわけで呼吸量のチェックから評価していきましょう。

呼吸量のチェック:CP

自分の呼吸が通常より早いのかどうかを簡単にチェックする方法があります。あなたの息を止めておく力(CP:二酸化炭素をとどめておく力)を測ってみましょう。

10秒未満
呼吸量が非常に多く、酸素が細胞に行き渡っていない可能性が高い

10秒から20秒未満
呼吸量が多く、息切れ、喘息、疲労がみられる可能性がある

20秒から40秒未満
呼吸量の問題はなし、まただ理想的な酸素供給とはいえない

40秒以上
脳と酸素に適切な酸素供給ができていて呼吸も楽に行える

呼吸パターンのチェック:Hi-Low

通常、安静時であれば呼吸は胸部と腹部が同じくらい上下します。

反り腰姿勢の方では、胸部ばかりが動いてしまいますので、日常の呼吸パターンを観察するのにこのHi-Low testは有効な指標となります。

胸部ばかり動く、すなわち

  • 吸気過多
  • 呼吸浅い
  • 呼吸補助筋群の過活動
  • 反り腰
  • 猫背
  • 巻き肩
  • 肋骨開いてる

この辺りはセットで起っていることは安易に予想できます。

目的

・呼吸機能の評価

手順

  1. 仰向けとなり胸骨と腹部に手を当てる
  2. 5秒かけて息を吸い、5秒かけて息を吐く
  3. 3〜5回反復する。

注意点

  • 胸郭と腹部が同時に動いているか?
  • 過剰な努力を要して呼吸を反復していないか?

PRIファンクショナル・スクワットテスト

肋骨が下がり、横隔膜がドーム上になることで骨盤も後ろに傾き、体をたたむようにスムーズにしゃがむことができます。

スムーズにしゃがむことができない場合、安静時に呼吸補助筋など過度な伸展筋群が働き、肋骨が開きやすく呼吸が浅い、つまりリラックスができずにアウターマッスル優位の非効率な体の使い方しかできていない可能性が考えられます。

肋骨の内旋能力

ここからはエクササイズのご紹介です。

正常な呼吸のポンプを評価,もしくは介入するためには,適切な横隔膜ドームの上昇と下降を認識することが必須であるが,横隔膜に含まれる受容体の数が乏しく6)、横隔膜を意識しようにもすることができないのも特徴の1つです。

そして前述の通り、横隔膜のポジションは胸郭や肋骨の形状変化に依存するため7)、まずは肋骨の内旋を呼気息を吐くこと)と共に徒手で誘導し、肋骨の動きを認識することが重要です。

仰臥位で肋骨縁のあたりに両手を起き、吸気時の肋骨の外旋、呼気時の肋骨の内旋を認識する。

呼気時には特に注意して肋骨の内旋を促し,獲得した内旋を失わないように次の吸気に移る。

肋骨の内旋と胸郭の回旋

肋骨の適切な内旋能力が求められることは先述の通りですが、適切なこの肋骨の内旋は胸郭の回旋運動にとっても必須となることをご理解いただきたいところです。

胸椎・肋骨の骨運動,関節運動において,胸椎右回旋時には右肋骨の外旋(肋骨後方の後方回旋),左肋骨の内旋(肋骨後方の前方回旋)が起こると報告している

Lee DG : Biomechanics of the thorax – research evidence and clinical expertise. J Man Manip Ther, 23 (3) :128-138, 2015

これが意味するのは,例えば,左肋骨の内旋に制限がある場合は,胸椎の右回旋に制限が起こる,という事である.つまり左右の肋骨の内旋能力の差が,左右の胸郭回旋能力に差を生む。

回旋が生まれないと何に問題があるの?

歩行です。

歩行に必要な推進力は胸郭の回旋、股関節の回旋は必須条件です。歩行に問題が起こるとどうなるのかというと下肢障害リスク増大や女性で言えば、太ももの張りやふくらはぎの張りも生まれてきそうです。

呼吸エクササイズ初級

CPで良い評価を得られなかった方は呼吸数を減らすステップを段階的に踏んでいきます。呼吸が適正でなければどのような運動を行っても思うような効果を得ることは難しくなります。

呼吸機能改善のエントリーポイントとしても呼吸量の減少ですので、ここでご紹介するエクササイズを毎日必ず行っていくのと同時に、毎週CPを1回、なるべく起床後に行い、秒数の変化を記録していきます。

3〜4秒ずつ増えていくのが理想的です。

1st IAP

1分間に4回〜10回までという回数が「ゆっくりとした呼吸」と定義され、1)

1分間に6回の呼吸が最も副交感神経優位な状態になると言われています。2)

1)Russo MA, Santarelli DM, O’Rourke D. The physiological effects of slow breathing in the healthy human. Breathe (Sheffield, England). 2017 Dec;13(4):298-309.2).BERNARDI L, PORTA C, GABUTTI A, SPICUZZA L, SLEIGHT P. Modulatory effects of respiration. Special Issue: Neural Regulation of Cardiovascular Function Explored in the Frequency Domain. 2001;90(1-2):47-56.

目的

胸腰椎が伸展できない状態でゆっくりとした呼吸を行うことで、ZOAの最適化、呼吸量の減少、腰背部の抑制を狙っていきます。

この姿勢は骨盤が前傾しようにもできませんし、息を吸うたびに腰や胸を反らしてしまう習慣がある方も反りたくとも剃ることができない、つまりは息を吸うたびに体が反らないということに慣れてもらうための運動にもなるわけです。

最も誰でもエントリーしやすく、代償のない非常に優秀なエクササイズです。

レッグローワ

呼吸エクササイズ:広背筋の抑制

目的

上肢挙上位にて呼吸を反復することで、広背筋の抑制を狙っていきます。

方法

  1. 仰向けとなりバンザイした姿勢を保持
  2. 腰の反りを抑えるため腹筋群の働きを賦活します。
  3. 鼻から5秒かけて吸い、5秒かけて口から吐き、5秒かけて息を止める。
  4. 3を3〜5回反復する。

注意点

腰が浮いてしまうとエクササイズの効果が出ないので、バンザイではなく、前ならえの  姿勢で実施するなど強度は調節していきましょう。

90/90 hip lift w/right arm&balloon

仰向けで両足を壁に休め、膝と股関節を90度に位置させる。

10-15 cmのボールを膝の間に挟んで、左手に風船を持つ両かかとは壁を蹴らずに、地面に向かって引き、ハムストリングの活性化を感じる。

ここから右手を天井に向かって伸ばしながら、風船にゆっくりと息を吹きこむ。息を吐き切ったら 3 秒間その状態を保ち、風船の口は摘まずに、舌を郊外にあてたまま、鼻から息を吸い、さらに風船を膨らませ右腕を天井に伸ばす。

腹壁からの拮抗を促しながらZone of Apposition (ZOA)を最大限に復元し、肋骨内旋位からの吸気を作ることで横隔膜や腹横筋などインナーユニットの活性に有効なエクササイズです。

最後に

呼吸の権威であるコンスタンチン・ビューテイコ博士が残した人間は1日だけでも粗い呼吸を続けてしまうとそのパターンが慢性化する」という言葉があります。

1日に最も行う運動が呼吸な訳ですので、悪い呼吸はそのまま定着しやすいということですね。

呼吸機能の改善には、何回をどれだけというよりも、毎日習慣化することを推奨しております。

参考文献

1)Loring SH, DeTroyer A : Actions of the respiratory muscles. In Roussora C, Macklem PT (eds) : The Thorax. New York, Marcel Dekker, 327-349, 1985.
2)Nason, LK, Walker, CM,et al. Imaging of the diaphragm: Anatomy and function. Radiographics 32(2): 51-70, 2012.
3)Lee D,胸郭統合アプローチ,石井美和子 監訳, 医歯薬出版,東京,pp12-14,2020
4)Petroll WM, et al. Effect of lower rib cage expansion and diaphragm shortening on the zone of apposition. J Appl Physiol 68:484-488, 1990
5)Boyle KL, et al. The Value of blowing up a balloon. N Am J Sports Phys Ther 5(3): 179–188. 2010

6)Roussos C : The Intercostals and Diaphragm Myelinated Afferents. The Thorax – Part A : Physiology, 2nd ed, CRC Press, Boca Raton, 916, 1995
7) Roussos C : Mechanical Aspects of Loaded Breathing.The Thorax – Part A : Physiology, 2nd ed, CRC Press Boca Raton, 955, 1995

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