後屈の教科書

現代人の日常生活において、どうしても前屈み(猫背のような)の姿勢が多くなる現状において、後屈動作を制限されている方が非常に多いです。

実際の現場指導でも後屈に制限がある方に非常に多く遭遇するのではないでしょうか?

矢状面の動作スクリーニングとして、後屈を評価することは私も多いのですが、やはり後屈制限があり、椎間関節を圧迫した動作パターンの人がほとんどで後屈時に腰部に痛みを訴える方が多いです。

後屈動作を言語化すると、抗重力伸展運動です。

つまり後屈動作の制限除去は、その後のエクササイズプログラムを円滑に進めるために非常に重要な要素であり、特にストレングストレーニングなどの筋力向上やアスリートのパフォーマンス向上を目指す際に備わっていてほしい土台となる身体機能となりますので、早期に評価・改善しておきたい動作となります。

ピラティススタジオであれば、基礎的な身体制御性の改善・向上が最も求められるところであり、ピラティスの得意な範囲ですので、現場でうまく評価や指導ができていないなという方にとっては、非常に有益なコラムとなるはずです。

では「後屈」と聞いて、何を改善したら良いのか?
パッと言語化することはできますでしょうか?

後屈で各関節や部位がどう動くのか?言語化できなければ、原因組織を推論することが不可能ですので、今回のコラムで丸暗記し、そのまま現場で活かしていきましょう!

目次

後屈の運動学

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後屈で評価するポイントがこれらです。

もちろん画像だけですと、静止画となりますので、伝えるのが困難ですが「挙動の質」的評価も合わせてみていきます。

ここでも1つ1つ分解していく必要があります。

脊椎伸展分節制御不全がある
▶︎何が問題?

上位頚椎の過剰な伸展がある
▶︎何が問題?

大転子が前方に移動しない?
▶︎何が問題?

これらを頭の中で仮設しながら、静的アライメントと結びつけていきます。

静的アライメント評価と何を結びつけていくのか?疑問に思った方も多いと思います。

静的アライメント評価で何を評価するのか?ここも言語化できていないと上記の疑問が浮かぶと思います。結論ですね、静的アライメント評価は「重心線と身体重心が一致することで関節モーメントが最小限になる」ことを前提に「関節モーメントが各関節(軟部組織)にどのような負担増となっているのか?またそれに伴う筋バランスの仮説」となります。

ですので、静的アライメント評価で筋バランスや身体重心の仮説ができていなければ、動作スクリーニングで何を見るべきかも具体化されませんので大した意味を持たないことになります。

だって動作スクリーニング評価は「アライメント評価で得られた情報が動作にどのように影響しているか」検証したいものだからです。

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これらを踏まえたうえで読み進めてください。そのうえで後屈に必要な要素を大きく2つに分類するとこのようになります。

■後屈に必要な要素を分解
・胸椎伸展の制御機能
・骨盤の後傾≒股関節伸展制限
・腹筋群の遠心性収縮

そしてこれらの何が足りていないのか?例えば骨盤後傾が出ないから腰椎の過伸展となり胸椎の可動性が失われ、上位頚椎の過伸展が生じていると仮説して、骨盤の後傾に対するアプローチが求められるわけですが、「じゃあ骨盤の後傾のエクササイズを行おう」と考えても現場では上手くいきません。

大切なのは
「なぜ骨盤の後傾が出ないのだろう?」
▶︎じゃあ骨盤後傾の制限となるのはなんだろう?
そこにアプローチしなければ改善とはいきません。


※さらに補足するとして後屈を立位で評価しておりますので、仰臥位や座位で骨盤の後傾可動性が十分でも立位では上手くいかないなんてこともザラにあるわけですので、そこも多角的視点から評価する必要があります。

例えば前庭覚や足底の体性感覚に問題があれば立位の後屈運動時に過緊張が生じ、円滑な動作を妨げているかもしれません。

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現場ではこのような思考の連続でエクササイズや整形外科テストなどを用いて最短(時短)となるプランニングを行う必要があります。

骨盤後傾の制限因子

骨盤後傾の制限因子として考えられるものは、当然ですが股関節屈筋群のタイトネスが王道です。

現場ではThomastestにて股関節屈筋群の中のどの組織が優位に短縮しているのか評価していきます。(ピラティスエクササイズならタワーでワンレッグのハムストリングスストレッチでも代替として簡易的ですが仮説ができます)

ThomasTest

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■テストする際の姿勢
患者は仰臥位となる。
非検査側の股関節を屈曲し、両手で抱える。
非検査側の股関節を屈曲させ腰椎の前弯を消失させます。

■陽性・陰性の判断
検査側の下肢が挙上、もしくは腰椎の前弯が増大すれば陽性

■評価ポイント
股関節屈曲による骨盤後傾で反対側の股関節屈筋群が短ければ膝関節は屈曲しますので、動作を誘導しながら評価を行っていきます。※股関節置換術を受けた患者に対しては、脱臼を引き起こす可能性がありますので、行うべきではありません。

Thomas testにて検査側の股関節の向きなどで、「股関節屈筋群の中でもどの筋の柔軟性低下があるのか」ヒントとなりますので、こちらも合わせて参考にしてみてください。

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まとめ
股関節屈曲外転→大腿筋膜張筋の短縮を示唆
股関節屈曲外旋→腸腰筋の短縮を示唆

骨盤後傾の制限因子となる股関節屈筋が分かれば、あとは各々が持ってるツールにて改善のアプローチを行えば問題ないです。

こちらでThomasテストについてはもっと詳しく書いてます!

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極端なタイトネスが見られなければ、相反抑制として「90/90ヒップリフト」などで骨盤後傾に作用するハムストリングスの活性を行っても良いです。

そして骨盤前傾に作用する強力な筋として「広背筋」も忘れてはいけません。

広背筋の筋長検査も後屈時に前額面での上腕の長さで評価してあげると良いです。

腹筋群の機能評価

後屈は腹筋群が遠心性で制御されています。


主に腹直筋を中心とした腹筋群のモーターコントロールを評価することが非常に重要です。※ポイントはあくまでも筋力ではなくモーターコントロールです。だからピラティスが強いわけです。

腹筋群のモーターコントロール評価
①腰部を床に押し付け腰椎後弯をする(腰椎の随意性を評価)
②頭部挙上(上部体幹の屈曲による上部腹筋群の求関節収縮)
③恥骨を上げ骨盤後傾(下部腹筋群の求心性収縮)
この順で腹筋運動を行い、求心性収縮の筋活動を評価します。
④腰椎後弯を維持したまま頭部を下ろす(上部腹筋群の遠心性収縮)
⑤骨盤を下ろす(下部腹筋群の遠心性収縮)
この順で遠心性収縮の評価を行います。

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例えばこの評価で運動自体がうまく行えない方には、ピラティスマシンを活用します。※補助的な役割として(随意性が低いクライアントは筋力がなくて動かし方が分かっていないということを考慮してアプローチします)。

タワーのロールダウンなんかはスプリングで調整も可能ですし、腹筋群の遠心性収縮制御機能の向上が狙える良いエクササイズとなります。

ピラティスマシンがない場合は、徒手的に誘導し、腹部の筋収縮感を評価します。

胸椎伸展可動性評価

胸椎の可動性は屈曲・伸展を主体としています。※腰椎は前弯していることから屈曲が65〜70度、伸展が15〜25度程度あり、伸展はそれほど大きくありせん。

胸椎伸展の可動性評価は、伏臥位にて行います。


多くの方は胸椎がほとんど伸展せずに腰椎の局所で伸展することを学習しているため、胸椎を動かすという知覚が乏しく、可動性だけではなく伸展の仕方も評価します。

前述の通り、多くの方は胸椎がほとんど伸展せずに腰椎の局所で伸展することを学習しているため、(下記図)脊椎全体で伸展することをこの際に学習してもらうよう指導することもオススメです。

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具体的な学習方法としては、腰椎を伸展させずに胸椎部のみの伸展運動を行うように指示し、各椎間が分節的に動くことを意識しながら上位胸椎から順番に伸展させていき、脊柱全体で伸展できるようにします。

肩甲骨アライメントと胸椎

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また、カイホロードシス姿勢やスウェイバック姿勢ですと、胸椎が後弯位となり、それに伴い肩甲骨が外転アライメントを呈しやすい状態のため、胸椎の伸展可動域の低下はもちろん、胸椎伸展エクササイズもうまく行えない可能性が高いです。

そのため、胸椎が後弯位であれば胸椎の可動性を評価するとともに、そもそもの静的立位アライメントを是正する必要性も念頭に置いておきましょう。

胸椎伸展のエクササイズ

胸椎伸展もまた言語化する必要があります。

胸椎伸展が出ない
▶︎胸椎伸展がなぜ出ないのか?
▶︎じゃあ胸椎伸展に必要な要素は?

このような思考が現場では常に「具体化/言語化」を即時的にできないと良いインストラクターにはなれないです。

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胸椎伸展に必要な機能はざっとこのくらいあります。

・これらの機能の何が足りないのか?
・なぜ足りていないのか?(原因は)
・足りているなら胸椎伸展可動性が出る土台がある
・じゃあエクササイズを行おう

となります。その中で胸椎伸展の知覚をうまく引き出せないという方は指導力が完全に不足していると判断してもらっても問題ないかと思います。

以上!

胸椎(胸郭)、骨盤帯、腹筋群の機能評価に着目した後屈の教科書でした。

ぜひ明日からの臨床の一助としてみてください

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