慢性腰痛の全て

どうもです!

腰痛に対する介入でよく起こる疑問

・姿勢がかなり改善された
・筋力も増えてきた
・腰部の筋肉も柔らかい
・力学ストレスも軽減した
▶︎なのに腰痛は軽減しない

はい、このようなパターンが非常に多いのではないでしょうか?

一方で

・姿勢は悪いまま
・筋力も向上したといえない
・腰部の筋肉は硬いまま
・力学的ストレスも腰にかかっている
▶︎なのに腰痛は軽減した

さあ、何ででしょうか?

結論、慢性腰痛と戦うには筋骨格系だけで戦っても勝つことはできません。痛みとは何か?腰痛とは何か?理論的に咀嚼しないと慢性腰痛を改善することが難渋します。

現場のなぜを解決するためにも腰痛を1から理解していきましょう!

目次

1章:腰痛の全体像

まずはじめに腰痛とは?から復習していきます。

ここを飛ばすと、全てのアプローチが無駄になりますので、「なぜこのエクササイズを行うべきなのか?」ご自身で咀嚼し、納得して進めるためにも病態の理解から行っていきましょう!いきます!長文です!おす。

腰痛は主に特異的腰痛と非特異的腰痛に分類されます。

特異的腰痛
①重篤な器質的疾患(骨折・感染・腫瘍など)の可能性がある場合
②神経症状(症候性の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など)を伴う場合

非特異的腰痛
①明確な器質的異常や神経学的所見がない腰痛

Deyoらは、医師の診察や画像所見により病態が明確化できる特異的腰痛は、プライマリ・ケアにおいて約15%しか認められず、その他の約85%は、原因が明らかではない非特異的腰痛と分類される1)



つまりほとんど原因を特定することができない腰痛ということになります。ほとんどの腰痛患者が整形外科に行っても、明らかな病態が見つからないので、街に整体が溢れているわけです。当然、ピラティススタジオにも腰痛が主訴のクライアントに溢れてますね。

「プライマリ・ケア」とは?

人が病気やケガをしたときに最初に受ける医療のことを主に指します。例えば、熱があって風邪っぽい、蕁麻疹できた、ぎっくり腰など、緊急に重大な事態に結びつくとは考えられない程度の異常が発生した場合に最初に診てもらう、診療所の「かかりつけ医」、あるいは病院であれば「総合内科」の総合医などがおこなう医療が、プライマリ・ケアの典型です。

有症期間

発症からの期間が、4週間未満を「急性」4週間以上3ヶ月未満を「亜急性」3ヶ月以上を「慢性」とすることが一般的ではあるが、急性と亜急性を発症からどの期間で分けるかについての一定の見解は得られていません。2)

急性腰痛は発症後1ヶ月で腰痛の程度は発症時の痛みの程度の58%まで急速に改善し、発症後3ヶ月までは緩徐に改善していくとされ、3)非特異的腰痛に関するシステマティックレビューでは、発症後3ヶ月に腰痛患者の33%が改善したが、1年後にも痛みを感じている患者は65%にも及ぶことが明らかになっています。4)

そして、非特異的腰痛の予後不良因子に関するシステマティックレビューでは、「恐怖回避思考」であることが示唆されており、これは前述の通り非特異的腰痛の大部分は病理解剖学的障害が見つからないものであり、従来の生物医学モデルのみでは適切に対処できないことを示しており、多面的な視点を持ったアプローチが必要となる事が分かります。

だから腰痛って姿勢を変えても、変わらないんです。

シンプルに原因はそれだけじゃない可能性が高いから!

そこで近年重要視されている要素の1つが心理社会的要因です。

通常、急性痛では組織損傷を広げないように局所の安静が必要であることを伝えるための警告信号が脳から届きますが、慢性痛では組織損傷がないのにも関わらず、警告信号を誤報としている状態にある可能性が考えらています。

この誤報を患者自身が受け止め、不安、抑うつ、破局的思考、運動恐怖などの心理的要因や、労働状況、家族状況、経済状況などの社会的要因などが複雑に絡まり合い、更なる痛みを引き起こすとされています。はい、慢性痛は複雑です。だからこそ疼痛科学の観点から理解する必要があります。

非特異的腰痛の要因

これは非特異的腰痛に限った話ではなく、全ての慢性痛、慢性的な不調に対しては同様にいくつのもの要因が絡まり合い、生じている可能性が高く、包括的なアプローチが求められることを十分にご留意ください。

では腰痛を発症する要因を挙げていきます。

内科的要因

呼吸、血液循環、自律神経の乱れは腰痛の要因となります。

粗悪な呼吸パターンの場合は、呼吸補助筋の過活動が生じます。つまり腰背部の過緊張や腰椎の不安定性が生じている状態であると捉えることができます。

粗悪な呼吸パターン≒横隔膜の機能低下を指すと思いますが、それって自律神経は当然乱れますよね。

特に交感神経優位が持続すると血管は収縮し、循環が滞ります。痛みの閾値も当然ながら上がっていきます。

血液循環や自律神経に関しても呼吸と密に関係し合うもので、呼吸の介入はどのような方に対しても、マストで行いたいエクササイズとなります。

モーターコントロール(Motor control)

モーターコントロールとは、日本語にすれば「動き(motor)」を「制御(control)する」ことになり、非特異的腰痛におけるモーターコントロール障害は「腰部の安定性が低下し、腰椎を適切に制御できなくなり、腰部の周辺組織に負担がかかった結果として腰痛が生じる」ことを意味します。5)

姿勢や動作不良が続き、本人も気づかないような腰部に対する非効率な微々たる負荷が蓄積され、結果として「痛み」が表に生じる腰痛です。皆様が考える腰痛とはこの「モーターコントロール障害」を指していることかと思います。

非特異性腰痛のマネジメントにおいて、動作と運動制御の評価に基づく介入は、病態に基づいた介入よりも重要である可能性が高く6構造的にここがこうだから腰痛が生じているというよりも、この動きができないからここを制御しようといった介入の方が慢性痛に対して効果的ではないかとされ、結論として制御されていない動作(UCM)の評価と再トレーニングが重要だと考えられます。7)

具体的には、皮膚の感覚鈍磨したり過敏に反応してしまっていないか?筋収縮感はあるか?関節は制御できているか?評価していき、それぞれの制御能力を高めていく必要があります。

基本的にピラティスで戦っていく主戦場はここになります。とにかく動作のクオリティを高めること。脊柱で言えば屈曲、伸展、側屈、回旋、全てが分節的に制御できること。どんな環境下でも!シンプルにコレっす!ただシンプルですが、指導となると難しい。痛みを抱えている人は緊張が抜けづらいから!



その為に呼吸量、呼吸パターンから介入していくケースが増えていきます。

なので曲解してほしくないのが、「腰部の安定性が低下している、制御できていない、だから体幹を鍛えよう!」という思考は捨ててください。というよりも体幹トレーニングが何を指すのかによるのですが、基本的に固める系は捨ててください。

先述のように緊張が抜けづらいです。痛みを抱えている人は。だから基本的に腰部を固める癖があります。そこにさらに固めるようなプランク系をやると、「次の日に腰痛が悪化した…」なんてフィードバックが返ってきます。

つまりプランクのような体幹部を固める運動は逆効果となってしまうケースもあります。ここで指す体幹トレーニングは一貫して脊柱の制御能力です。筋力云々ではないので、絶対に曲解しないでください。(2回目w)

まとめると、エクササイズ自体に善悪はないですが、使うタイミングによっては、余計に症状を悪化させる原因となり、特に今回のような慢性的な痛みや不調を抱えているケースではほとんどが身体の緊張が強い方ですので、プログラム初期で行うことはお控えくださいということす!

心理社会的ストレス

冒頭で触れましたが、近年重要視されている腰痛の要因の1つが「心理社会的要因」です。

大きく分けて「認知的要因(cognitive)」「情緒・感情的要因(affective.emo-tional factors)」「社会的要因(social factors)」に分類されています。8)

その中でも社会的要因とは具体的には「患者を取り巻く環境要因」を指し、社会的経済状況、破局的思考、自己効力感、職場の上司へのストレスや同僚との不仲、つまり人間関係などが腰痛の症状を助長させている可能性はあらゆる論文や腰痛ガイドラインにおいても示唆されていることです。9)

慢性腰痛は心理社会的要因として、環境要因の変化が必要となることも考えられるため、運動だけが有効となるわけではございません。

パーソナリティー

パーソナリティーとは、主に個々の性格やこれまで培ってきた経験をさします。

性格を変えることは困難ですが、経験を変えることに至っては運動が得意とする領域です。

例えば

体を動かすと腰が痛い

何度も記憶にすり込んでいる場合は、痛みがなくともそういう反応が出てきやすくなります。

適切な運動療法を段階的に取り組むことで、痛みなく動けるという経験し、再学習を促す必要性があるということです。

またその腰痛患者が腰痛に対する間違った教育がされている可能性は十分にあるでしょう。これは後述する「信念・信条(belief)」でも触れますが、謝った腰痛の情報を取り入れてしまっている人はそれだけでその方の腰痛に対する認識いわば学習が行われている状態です。

正しい腰痛の知見を再教育することは腰痛の改善に繋がる大前提と言えます。

睡眠

最後に生活習慣です。

近年、睡眠と痛みの関係に関して多くの関心が示されています。

Finan10)らの報告では2005~2013年までの間に出版された睡眠と痛みに関する論文を吟味した結果、『睡眠の質が悪いことにより、痛みの感受性が強くなるのか?』『日中の痛みが悪化することで睡眠の質が阻害されているのか?』双方ともに関係はあるが、結論、『夜間に睡眠の質が保てないことによる痛みの影響が強い』と報告しています。

さらに裏付けるように、睡眠が阻害されることで、痛みの感受性の向上痛みの閾値の低下があげられています。11)

つまりここで分かることは、睡眠の質を向上することは、慢性痛の改善に非常に有用であり、指導者であれば睡眠の質の確認しておくべき項目と言えます。

腰痛は生活習慣や体組成が影響することもあるので、運動療法で改善が見られない場合、運動の効果を打ち消すほどの負担はないか?生活習慣にも目を配る必要があります。

腰痛の評価項目

ここまで読んでくれた方は十分にご理解いただいていると思いますが、「どの組織が疼痛の原因なのか?」といった評価法など腰痛を細分化しすぎては、根本的な原因を探し出すことは極めて困難となります。

腰痛といえば「椎間板性腰痛」「椎間関節性腰痛」「筋筋膜性腰痛」など聞いたことがあると思いますが、そのような構造的に正常から逸脱した組織と非特異的腰痛との関連性は低く、事実、多くの慢性痛が生じていない人でも椎間板や椎間関節の変形が認められています。12)

ここはかなり個人的な主観も混じりますが、段階的な手順で腰痛に対する評価法を解説していきます。
※全ての評価項目を簡易的にまとめていますが、より深掘りした内容は個別で後述します。

RED flag

腰痛の中には「RED flag」と呼ばれる重篤な疾患を有する可能性を示すリスクファクターがあります。ここは絶対に見落としてはいけません!

RED flag重篤な疾患を見逃さないためのサインであり、仮に見過ごしたまま整体やパーソナルトレーニングなどを実施してしまうと、その方の生命に関わる重大な事態を招く恐れがあるため、早期に判断する必要があり、一般の方であってもこういった知見があることで身近な方を救える可能性が増えるので知っておいて損はない知見となります。

非特異的腰痛というものは基本的に原因が分からない疾患ですが、医療機関であれば酷い症状の原因が見つかる可能性があるため、RED flagは必ず見過ごさないようにしましょう。

心理社会的要因(Yellow flags)

心理社会的要因が非特異的腰痛にどのような影響を及ぼしているのか、腰痛の慢性化リスクを評価するためのツールとしてSTarT Backスクリーニングツール(SBST)は有用です。

※心理社会的要因が認められたからといって、その痛みが必ず影響していると言うことではなく、痛みが発生する以前からストレスを感じている場合もあれば、痛みが続くことでストレスを感じていることも考えられるため、痛みとの相関性はどの程度あるか?決めつけることなく、評価することが大切です。

静的アライメント・動作評価

腰痛の症状がどのような動作、姿勢によって和らぐのかといった情報は、アプローチの方向性を決定する補助的役割があると考えています。

急性痛(ぎっくり腰)では、ほとんどの動作が器質的な痛み(侵害受容性疼痛や炎症性の疼痛)により動作が阻害されているため、動作項目として見れる範囲は少ないです。

しかし慢性腰痛では急性期から組織が治癒したとしても、痛みや機能的制限が生じているケースが非常に多く、前述のbeliefや恐怖回避行動により、痛みを避けるために決まった動作バターンしかできないといった背景が存在している可能性が高いです。

基本的な流れとしてはこう。

  1. 呼吸量.パターンの評価
  2. 姿勢評価(力学的ストレスの仮説)
  3. 前屈・後屈・側屈・回旋(挙動のクオリティの確認)

といった流れで、おおよそ問題ないかと思います。

信念・信条(belief)

beliefとは、患者が「原因は何だと思っているのか?

その信念や思考が痛みを慢性化させている可能性を示唆している概念です。

例えば

痛みは私の姿勢が悪いからである

と謝った認識をしてしまっている場合、指導者側が腰椎を動かす運動療法を促しても「いや腰が痛くなるが怖いです。」といった反応があったり、またその恐怖回避行動の影響で体が過緊張してしまい、腰椎の動きが出ずに、固めることでより力学的な負荷がかかり痛みを助長する可能性もあります。

また知識のない指導者に

あなたの腰椎は不安定です。
あなたの腰痛は骨盤が歪んでいるからです。

と安易な身体的評価としてのワードがその方の信念を変化させてしまい、常に腰椎の安定を求めて腹部を緊張させ腰痛が慢性化してしまったり、歪まない骨盤を歪んでいると認知し、活動量の低下廃用性に筋力の低下などその方の身体に大ダメージを与えてしまう結果となることまで惹起できます。

慢性腰痛は組織的な損傷がない可能性が高い
姿勢と腰痛の相関性は研究で低く示されている

といった確かな情報を患者へ再教育を行なっていくことが、スムーズに運動療法を行っていくうえで重要な事となります。

具体的に患者のbeliefを理解するためには、

以前どのような治療や説明を受けてこられましたか?
〇〇さんの腰痛の原因はどんなものだと思いますか?

などの質問が有用となります。僕は結構この類の質問をよく行います。シンプルに誤った情報をどんどん僕色に染めていきたいからですw

ここまでのまとめ

このように腰痛の原因は様々です。

姿勢が悪いから
筋力が弱いから


といった身体的側面だけではなく、内科的、心理的な原因も混在する可能性があるため、多角的アプローチが求められます。とはいえ我々はカウンセラーではないので、心理的なケアは専門外です。と思ってしまった方は最後まで読み進めていただきたいのですが、運動療法の意義を痛みの側面から再考すれば、なぜ運動療法が最良の手段となるのかが腑に落ちます。

・慢性痛はいくつのもの要因が絡まり合い生じている。
・整体やマッサージだけで慢性不調が改善することが難しい
だって痛みの経験が変わりにくいから!

受動的な介入だけではなく、心理的側面、身体的側面両方にアプローチできるのは能動的な介入、つまり運動となります。こういった背景があるからこそ運動療法は推奨されるわけですね。

2章: アプローチの方向性

繰り返します!

非特異的腰痛は”原因の特定が困難”すなわち「解剖学(構造)的」に原因の特定が困難な腰痛でしたよね?

腰痛領域の研究を世界的にリードしているオーストラリアのガイドラインでは、急性腰痛を呈する人々の95%が非特異的腰痛であり、特異的な疾患は稀であるとも述べられています。1)

特異という言葉の意味は「普通とは異なっている」ことであり、非特異的腰痛とは、「普通とは異なっていない」腰痛を指し、そこに確かな原因はないことを意味します。

こちらの論文を見てみましょう。

例えば医療機関にてレントゲンやMRI画像にて特異的所見が見つかったとしても、それが症状と本当に関係しているものなのかは定かではないといったことが考えられます。

アプローチと分類

ここまでの腰痛の全体像を見ていくと、この非特異的腰痛とは多岐に渡る因子が複雑に絡み合い「痛み」として現れていることは十二分にご理解できたかと思います。

アプローチの方向性はざっくりこれを抑えておきましょう!

構造的な問題よりも

・モーターコントロール(体の動かし方)といった機能的な問題
・病態の捉え方、痛みの捉え方、生活習慣といった心理社会的な問題

シンプルにこの2点の評価と介入です!

3章:RED flagの理解

まず優先すべき評価項目は「RED flag」の除外となります。

もちろん医師以外に診断権はございませんが、医師の診断をすり抜けて、リハビリが処方されるケースもあるため、またトレーナー、整体師と確かな議論を交わすためにも、急な病態変化に対応、ご自身の身を守るためにも、一般の方であっても「RED flag」を知っておくことは重要なことです。

RED flagとは重篤な疾患を有するリスクファクターのことを指します。

・感染症
・悪性腫瘍
・骨折

などの運動、マッサージなどの理学療法適応外で「緊急に専門医の対応な重篤な疾患」を有する可能性が高く、その兆候が認められた場合は、早期に病院にて精査する必要が出てきます。

RED flagの分類と関連する重篤な疾患

RED flagが疑える症状

代表的なRED flagとして、20歳以下もしくは50歳以上、説明のつかない体重減少、広範囲な神経症状、悪性腫瘍の既往歴、安静で軽減しない痛み、悶え苦しむ痛みなどがあります。13

癌の既往歴、過去の保存治療抵抗性、説明のつかない体重減少、50歳以上の4つのRED flagを有している場合、ほぼ100%で悪性腫瘍が認められるといった報告もあります。14)

4章:yellow flag(心理社会的要因)とは

腰痛は病理解剖学的障害が原因と識別されるものは8~15%であり、残りは病理解剖学的障害が見つからない非特異的腰痛です。15)

何度も言いますが、近年重要視されているのが「心理社会的要因」であり、心理社会的要因が腰痛に影響を与えることを示唆する論文は、各国で多数報告されており、同時に「生物心理社会モデル」という概念に基づいたアプローチの重要性が認識されている。16〜21)

心理社会的要因の徴候はyellow flagとも呼ばれ、

具体的には

患者が頭で考えること」
心で感じること」
取り巻く環境

の3つを指します。

実際に多くの研究において非特異的腰痛と心理社会的要因「恐怖回避思考、自己効力感、破局的思考、運動恐怖感、対人関係」などは腰痛増悪のリスクファクターと報告されており21~27)、その関連性は無視できない。

慢性腰痛と心理社会的要因

腰痛を考える際に、「急性腰痛なのか?」「慢性腰痛なのか?」分類する必要があります。

通常では8章から3ヶ月以上が慢性痛と定義されたりもしますが、腰痛に関しては本質的に発症からの期間で明確に判断するのではなく、生物心理社会的モデルに基づいて以下のように定義して話を進めていきます。

組織損傷から想定出来る痛みを急性腰痛
想定を超えた訴えのある痛みが慢性腰痛

具体的には急性腰痛であれば、組織損傷を伴っているため、痛みの評価をする際に、痛みの再現性(〜すると痛い、〜すると痛くないなど)を見つけることができます。

慢性腰痛であれば組織損傷を伴っていない心理社会的要因も複合的に絡んでいる可能性があり、痛みの再現性を見つけることが困難(今日はあまり痛くない、特定の動作で痛むといったわけではないなど)な場合が非常に多いです。

はい、なので僕は痛みの再現性がない、または日によって極度に痛みの感じ方に差がある場合は慢性腰痛と捉えて介入を進めていきます。

腰痛が慢性化した患者の特徴

例え組織損傷が伴った急性腰痛患者であっても、生物心理社会モデルに基づいたアプローチが慢性化を防ぐうえで非常に重要なプロトコルであることはこちらの論文から紐解いていくと理解が得やすいです。

オーストラリアの腰痛患者、1年間の追跡調査を伴うコホート研究。

”2週間以内に非特異的腰痛を発症した973名(男性54.8%,女性45.2%)を対象に12ヶ月間、疼痛、機能障害、仕事復帰を前向きに調査し、予後不良因子を検討した研究において、結果として約30%の患者が12か月後も完全な回復に至らなかった。”

Henschke N, Maher CG, Refshauge KM, Herbert RD, Cumming RG, Bleasel J, York J, Das A, McAuley JH. Prognosis in patients with recent onset low back pain in Australian primary care: inception cohort study. BMJ. 2008 Jul 7;337(7662):a171.

そして回復していない患者の特徴として、

・発症時に疼痛レベルが高い
・活動量を制限していた
・抑うつ傾向
・痛みが永続的に持続すると考えていた

この4点がみられていたとあります。

腰痛を慢性化する原因として、やっぱり心理社会的要因は大きく影響することがこの研究でも分かります。

そして活動量を制限しすぎないこと、これはつまり、痛いからと安静にし、動かなすぎることでも痛みは慢性化しやすく、運動療法によるリハビリテーションの意義を再確認できるものであります。

だから運動って基本的には急性だろうが行うべきです。

ただ大切なのが「痛みの出ない方向へ動かす」です!

運動で痛みを与えてしまうと、それは当然痛みへの恐怖心で余計にリハビリが進まなくなります。

慢性腰痛と心理社会的要因

ここで改めて慢性化した腰痛と急性腰痛の違いをおさらいしておきましょう。

基本的に慢性化してしまった腰痛に関しては、身体的要因プラス心理社会的側面も含め多角的な要因が複合しています。

そして急性腰痛だとしても、活動を制限しすぎる、言い換えれば安静にしすぎてしまったり受動的な治療(マッサージ、整体などの徒手療法)に依存し過ぎてしまうことは、慢性腰痛へと疼痛の主要因が変化する可能性が示唆されていることとなります。

ここもどれだけ患者教育できるかが重要です。

基本的に急性痛の方は痛みに対してネガティブです。どれだけ説得力のなる説明ができ、さらには痛みの出ない方向へ誘導するかです。だからエクササイズを知ってるだけでは、ナンセンスなんです。

力学的、構造的、運動学的に痛みを緩和する方へ動作は誘導するエクササイズ選択が求められます。

⑤ Yellow fragの評価

非特異的腰痛の原因や改善の妨げとなっている要因として、「yellow flag(心理社会的要因)」は十分に絡んでくるということはこれまでに散々述べてきました。

特に痛みが慢性化すればするほど、心理社会的要因の関係の多さは報告されており、今回は簡易的に分類できる代表的なスクリーニングツール「STsrT back」をご紹介いたします。

患者自身が質問用紙に答える自己記入形式で行われるものですので、ご自身で記入してどの程度、yellow flagが絡んできているのか、評価してみましょう。

STsrT back

STsrT backスクリーニングツールとは、イギリスで開発され、腰痛の予後予測、心理社会的要因の把握に使用されます。

前半の身体的要因に関する質問4つ、後半の心理的要因に関する質問5つの合計9問で構成されており、点数に応じて、low risk、medium risk、high riskの3グループに分類し、それぞれに応じてアプローチいたします。

high riskに分類される場合、「痛い原因は体のどこかが悪い」と決めつけてしまっているケースは非常に多く、難渋することも多々あり、心理社会的要因を考慮したアプローチはもちろん必要だが、「あなたの腰痛は心理面の影響」と決めつけるような捉え方も望ましくはないが、あまりにも過度にネガティブな要素が見受けられる場合は運動指導者、もしくはセルフケアに限界があることも考えられ、その際は認知行動療法などの心理的側面に特化したアプローチも推奨されています。28〜30)

個人的な主観ですが、あまりにもハイスコアでない限りは、心理社会的要因についての理解(説明)と、身体機能、構造面の理解(説明)を考慮した双方からのアプローチが「疼痛科学の観点から」最も最良の手段となり、現場でも効果を実感しています。

具体的には、「疼痛よりも機能面にシフト」した、患者自身の病態に関する認知、運動による痛みの経験を通したアプローチとなります。

⑥ Yellow fragに対する基本戦略

非特異的腰痛に限った話ではないですが、全ての主訴改善に必須、核となることを大きくまとめると「患者教育」です。

特にYellow fragに対するアプローチでは最も優先的に行うべきであり、これは患者自らが能動的に「腰痛とは?痛みとは?」を理解し改善に取り組むことで初めてアプローチの効果が生まれるものと言えるからです。

患者教育とは?

医療専門家が、患者や患者の介護者に対して、自身の健康にかかわる情報を伝えることを指し、 これは適切な訓練を受けた医療従事者によってなされるものとされていますが、実際には一般の方が正しい情報の取捨選択を行うことは難しく、病態に対する謝った認識が根付き31)悲観的な思考過度な筋収縮運動恐怖感破局的思考に繋がり、慢性疼痛を憎悪させているケースは非常に多いとされます。32,33)

ここでいう患者教育とは、ご自身で病態の全体像を理解することと定義しています。

腰痛のケース

ゴールを明確にする

多くの患者は「痛みの消失」を目的としているが、それが全てでは留まらず、その先にどの活動レベルでそれを達成したいのか?が本質的な要素です。

セラピスト、患者自身が共通のゴールを持つことが非常に重要であり、患者自身が主体となってゴールを設けることは、慢性腰痛患者において、改善の成績が向上していることが報告されています。34)

具体的には慢性腰痛に対する「障害、痛みの強さ、生活の質、自己効力感、運動恐怖症」において、運動やセルフエクササイズとしてのアドバイスよりも患者自身の明確なゴール設定を持つことの方が、有意に効果的な結果となり、さらにはこれらの改善は 12 か月後も維持されており、能動的にゴール設定を持つことがスタートとしては必要な要素と考えらます。


これはイントラにも当てはまることだとで、明確なゴール設定を互いに共有し、能動的なリハビリテーションとしてクライアントが運動に臨めるかどうか?ここが慢性疼痛の改善に必要な要素となります。だからカウンセリングと定期的なヒアリング、現状確認は欠かしたらいけないんです。

1だって、痛みにネガティブな人は1発で変えてほしい
2でも現実は一回のレッスンで痛みを0にすることは難しい
3だからモチベーションを維持することも難しい
4だからいつまでに〇〇ができるなど短〜長期的な目標設定は超重要だよね?
5だって心理社会的要因は慢性痛の原因から

です。

痛みとは何か?理解すること

これまで散々述べてきましたが、非特異的腰痛の原因は様々であることを誰よりも”患者自身”が理解しておく必要がある。

動作時に腰椎が過度に伸展してしまっている方では、常に圧迫ストレスとして腰部に負担をかけており、痛みの原因となっている可能性が高いこと、そして適切な運動制御パターンを身につけることで疼痛の軽減に繋がることを理解すること。

また、心理社会的要因の影響が濃い腰痛患者に対しては「運動恐怖が腰痛にどう影響するのか、破局的思考がどのように痛みを憎悪させているか」しっかり理解すること。

「痛みとは何か?」

脳の変化によって痛みを感じやすくなっていること、自身の痛みはなぜ起こっているのか?

理解することで痛みの改善が認められることは報告されていることで35,36)痛みの患者教育」は腰痛に限ったことではなく、どの分類でも必須となり、自身の腰痛の”原因”を理解することで、今のアプローチが何のために行われているのかが明確となり、セルフケア、セルフエクササイズでも意欲的に取り組むことができ、改善の効果を高めることに繋がるわけですね。

腰痛の真実を理解すること

「MRI画像と非特異的腰痛の原因は関連性が低い」
「腰痛に対する捉え方、運動恐怖感などの心理社会的要因と腰痛は関連する」

エビデンスに基づいた根拠ある腰痛の真実を自ら理解し、リハビリテーションを行うことがすごく重要!

ここまで読んでくれた方はお気づきだと思いますが、多くの方は間違った常識を信じていますよね?

「骨盤が歪んでいるから腰が痛い」
「腹筋群が脆弱だから腰が痛い」

といった過去に間違った説明を受けている一般の方ほど、慢性腰痛に悩まされている傾向が非常に強く、Brlief(信念)が形成されてしまっています。

⑦介入例

実際の介入例としてまとめていきます。

これまでを踏まえたうえで、生物心理社会モデルから非特異的腰痛は以下の3つの側面からアプローチしていくと良い反応が得られるかと思います。

認知面への介入

まずは認知面への介入です。

非特異的腰痛患者は腰痛に対してネガティブな考えや過度な恐怖感があり、優先的に画像所見と非特異的腰痛の関連性の低さの説明、疼痛出現のメカニズムの説明、現在の動作の確認(背骨がひとかたまりで分節運動制御不全が起こっている)等をエビデンスベースにて行います。

決して悲観的な言葉を受けても、真に受けてはいけません。

機能面への介入

ここは次項のモーターコントロールで詳しくご説明いたしますが、

腰椎の動きを適切に制御できなくなることにより、腰部周囲組織に負担がかかり腰痛が生じているものをモーターコントロール障害とし、つまり「制御できていない関節を制御できるよう訓練していきましょう。」ということになり、言わずもがな運動でしか解決できないのが機能面となります。

生活習慣への介入

普段の運動、睡眠、食事といった基礎的な生活習慣の改善は慢性腰痛との関連が報告されており、37,38)生活習慣への介入、すなわち自律神経系の活性は慢性痛にとって欠かせない要素です。

痛みがあるからと運動習慣のない方は慢性痛になりやすいことから、長時間の歩行やジョギングで痛みが出現するのなら、エアロバイクや自転車、など腰痛患者が主体的に継続できるエクササイズプログラムを選択していきます。

初期のプログラムとしては、痛みが出現しないエクササイズを実践していきますが、これまで述べてきた通り、非特異的腰痛は組織的損傷がないにもかかわらず痛みを感じているケースが非常に多く、中期、後期とあらゆる脊柱のエクササイズを実践し、徐々に動作の多様性の獲得を目指していきます。

⑧モーターコントロール障害

モーターコントロールは日本語にすれば「動き(Motor)を制御する(Control)」ことになり、モーターコントロール障害は「動きを制御することの障害」ということになります。

非特異的腰痛におけるモーターコントロール障害は腰部の安定性が低下し、腰痛の動き(広義の意味で筋機能)を適切に制御できなくなる事による、腰部周囲組織に負担がかかった結果として生じることを意味します。

シンプルに動作不安は痛みに繋がります。

動作の経験、動作の安定性、動作の質 (エラーの低減)に対する入力の増加、そして動作への自信を得ることによる、自己知覚の増加などは痛みの軽減につながるとされ、また自己知覚、身体知覚が明確ではなく、体が何処にあるのかわからない場合、脳は脅威と捉え、痛みの信号を優先的に捉える (敏感になる)ため、モーターコントロールを正常なものに導くことは非特異的腰痛の改善に必須のプロセスです。

モーターコントロール障害で腰痛が生じるメカニズム

モーターコントロール障害による非特異的腰痛の要因は、前述の通り、主に腰部の不安定性による「腰椎周囲の組織への負荷増大」がメインとなります。

それは本人も気づかない程度の微々たる負荷が蓄積された結果として現れるケースがほとんどです!だからいつの間にか痛みを引き起こしているわけです。

具体的なモーターコントロール障害によって生じる負荷は2種類に分類できると考えられます。

①動作時の負荷
②静的姿勢保持の持続的負荷

それぞれが腰椎を制御できないために、腰部にとって不利なポジションを強いられ続けている結果、組織に損傷を与え疼痛が生じる流れとなります。

ただ静的姿勢保持による持続的負荷を姿勢が悪いから腰痛になるといった考え方は少し曲解です。

結論、大切なのは同一姿勢を長時間続けない、姿勢保持の際の筋活動パターンに問題があることです。

姿勢(外見上の姿勢の良さ)が直接痛みに影響するわけではなく、

その姿勢を正確に把握できているか?
見た目の姿勢と自身が感じている姿勢にギャップがないか?
筋活動に多様性があるのか?
同一姿勢を長時間取り続けていないか?

ということが重要になることを表しています。

⑧ 腰椎の安定性

筋肉は主にグローバル筋とローカル筋に分類されます、めっちゃ簡単にいうとアウターマッスル、インナーマッスルですね、具体的な定義があるのか分かりませんが(おそらくないw)シンプルに表層と深層で分けちゃいましょ。

脊柱の筋機能を2つに分類すると、

グローバル筋:表層筋
ローカル筋 :深層筋

に分けることができます。

グローバル筋

腹直筋や脊柱起立筋が該当し、主に速筋繊維で構成されており、瞬発的な身体活動を行う場合に、優位に働く筋です。

脊柱全体に付着しているため、脊柱の分節間の動きを制御すること(細かな動きのコントロール)に適しておらず、また持続的な収縮は苦手となる。

ローカル筋

腹横筋、多裂筋群が該当し、主に遅筋繊維で構成されており、持続的な収縮を得意とします。

静的な姿勢保持など、過度な筋出力を必要としない環境において常に働いている筋群となります。

多裂筋は脊椎の分節間に付着していることから、脊柱の分節運動の制御や外部からの刺激(外乱)に対し筋緊張を変化し適応する能力を担っており、また固有受容器も豊富39)なことから、腰椎をコントロールする際の主動筋となることが考えられます。

腰椎の安定性を再考

腰椎の安定性が向上することは、間違いなく腰椎周囲の負担を軽減し、非特異的腰痛の改善に有効となりますが、安定性とはただ腹筋を強化し、体幹部を固めるような事ではございません。

Hodgesらによる「健常者には上肢を挙上する直前に反射的に腹横筋、多裂筋といったローカル筋群が働き、腰痛患者においては、上肢の挙上時のローカル筋群の反応の遅延、もしくは消失する」といった有名な研究報告があります。40)

しかし一方で「腰痛患者は上肢挙上の直前にローカル筋群、グローバル筋群の過度な収縮が生じてしまっており、それが疼痛の原因になっている」といった逆の研究報告もあります。41)

一見矛盾しているように感じる両者の研究ですが、どちらにおいても共通しているのが、「四肢の動きに伴い腰部の安定性に寄与する筋群を適切に制御できていない」状態にある事です。

前者のようにローカル筋群の反応が悪いのも、腰椎の不安定性から痛みに繋がり、後者のように過度に腹筋や脊柱起立筋群などの剛性を高めることもまた脊柱の動きを止めてしまい、痛みに繋がってしまうことになります。

上記の論文からみても基本的に、体幹部を固めるためのアプローチは推奨できません。

非特異的腰痛の運動療法にて、腹筋群を固めるような剛性を高めるブレーシング(bracing)エクササイズ42)を学習させることは逆効果となり、行うべきは過度に収縮してしまっているグローバル筋群を抑制し、脊椎分節運動の学習、すなわちローカル筋群の活性/再学習がメインとなります。

抑制したい筋
・広背筋
・脊柱起立筋群

活性したい筋
・多裂筋
・腹横筋
・内腹斜筋

この辺りは腰痛患者のというよりは、脊柱制御機能を向上するうえで欠かせない筋機能を取り戻すというイメージです。

⑨ 運動療法の実践

以下のエビデンスを見ていきましょう!

まとめると、

1腰痛患者はいきんでる、体を固めてる
2だから背骨をコントロールしたい
3そのためには過度な緊張は邪魔だよね?
4じゃあ抑制しよう
5そのうえで脊柱の分節制御機能を向上しよう
6どの方向にも偏りがないのがベスト

ざっとこんな感じです!

運動を通した新たな『経験』の学習

運動は痛みの経験を変えるのに重要でしたよね?

そこで痛みの恐怖回避モデル(Fear-Avoidance Model)についてもここで少しだけ触れていきます。

恐怖回避モデルとは、慢性疼痛の発生と持続を説明する重要な心理社会的モデルです。このモデルは、急性の痛みが慢性化するメカニズムを理解するのに役立ちます。

恐怖回避モデルの主要なプロセス

疼痛の増強:
活動制限や身体的・心理的な機能低下によって、痛みが増強される可能性があります。これにより恐怖回避信念が強まり、慢性的な痛みのサイクルが形成されます

組織損傷・疼痛:
個人が怪我や疾患による痛みを経験します。

破局的思考・疼痛に対する恐怖:
痛みに対する過度な恐怖や不安が生じます。この段階で、痛みが悪化したり身体に損傷を与えたりするという考えが形成されます

回避・過剰警戒:
痛みを回避するために、個人は活動を制限したり特定の動作を避けたりします。これにより日常生活や社会的活動への参加が制限されます。

不活動・抑うつ・身体機能障害:
回避行動や活動制限によって不活動となり、筋力や柔軟性の低下などの身体機能障害が生じます。同時に、心理的な不安や抑うつ症状が増加する可能性があります。


このモデルは恐怖回避信念が痛みの体験と活動制限の関係に大きな影響を与え、慢性疼痛を悪化させることを示しています。痛みを回避するための行動が日常生活や活動を制限し、それが身体的・心理的な機能低下を引き起こし、さらに痛みを増強させるという悪循環が慢性痛は起こっている可能性があり、

この負のループを抜け出すのが「運動」が強いよね?

だって運動は痛みの経験を上書きできるから

です!

運動を通して痛みのない経験を与えましょう!

・痛みのない経験
・運動恐怖の解消
・予後不安の解消

コレら全てをいっぺんに与えられるのが運動です!素晴らしい!

脊柱の評価

脊柱の制御機能評価は以下の通り。ここを前屈や後屈など挙動の質と合わせて、仮設し、エクササイズの中で検証していくのがスピーディーです。

・脊柱のどこが動かないのか?
・脊柱のどこが動きすぎるのか?
・それはどの局面で?(立位、座位など)
・それはどの方向で?(屈曲、回旋時など)

この辺りを臨床上、私はチェックしています。

その他:joint by joint

その他の要因として、基礎的なjoint理論に沿って、安定と分離など機能的な動作を獲得していくことでより力学的ストレスの軽減に繋がりますので、頭に入れておきましょう。

オーバーブレーシング

非特異的腰痛に悩む方の筋動員パターンとして、腰部起立筋が過度な発達が特徴的です。

「なぜ発達しているのか?」

というと日常的に伸展筋が働き、負荷をかけ続けており、過剰に固めているため、筋が無駄に発達しているためです。



ここが発達しているという方はおそらく「オーバーブレーシング(固め癖)」で間違いなく、このような方はどんなエクササイズ(腹筋、背筋、スクワット、)何をやろうが背筋の過収縮が起こり、剛性を高めようとしている状態となる。



この起立筋は前項で述べたグローバル筋にあたるもので、まず鍛えるのではなく、抑制していかないといけない対象であるということはここまで読んでいただいた方はご理解できているところかと思います。

筋動員パターンを変えていくためには?

すなわち呼吸量の減少、自律神経系の活性を主としたエクササイズで安静時の筋緊張を抑制し「脱力」ができていることが前提条件です。

脱力ができて初めて、低閾値での運動制御訓練を行うための素地が完成すると思っていただいて問題ございません。

運動療法のプログラム

これまでのエビデンスを元にPADDLEで推奨する運動療法のプログラムの順序は以下の通りです。

まずは不必要な緊張を抑制します。緊張して固めている体に対してやはり分節運動を促しても、できませんので分節運動を安全かつ効果的に行うためにも緊張の抑制から行っていきます。

運動指導者として最も取り入れやすいのが「呼吸量」の減少です!

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インプリント・ブリージング

  1. リラックスして仰向けになります
  2. 鼻から5秒かけて息を吸います。
  3. 鼻、もしくは口から5秒かけて息を吐きます。
  4. 5秒息を止めます。
  5. 2〜4を3回繰り返します。

息を吐く」という行為で副交感神経は活性化されるため、息を吐くパートは特に意識をしてしっかり吐き切りたいです。副交感神経を活性化せることでリラックスを促すため、初手で呼気にフォーカスしたエクササイズを頻回に取り入れたいです。

Maらによる研究43)をはじめ多くの研究によって、1分間に4〜6回まで呼吸量を減らして行う呼吸トレーニングを行うことでストレスレベルが有意に減少することが報告されており、不必要な緊張を抑制するために意図的に呼吸量を落とす訓練も取り入れていきましょう。

アームアークス

  1. 仰向けに寝て、膝を90度に曲げ、骨盤を後傾させる。
  2. 腕を天井方向へ垂直に伸ばし、手のひらを向かい合わせにします。
  3. 吐きながら、両腕をバンザイの位置まで近づけていきます。この時、腰が反らないよう注意します。
  4. 吸いながら、両腕を垂直の位置まで戻します。これを5セット程度行います。
  • 「動かさないところ」と「動かすところ」をはっきり分けて行うことが重要です。体幹や肩関節の位置は動かさないようにします。
  • 腰が反ったり、肩甲骨が寄って肩関節が床方向へ下がってしまうことに注意しましょう

代償パターン

屈曲

インプリント姿勢の延長線です。

その後の脊柱の伸展、側屈、回旋もある種、全て屈曲の制御が関わってくるので、プログラムの初期に最も時間を使っていきたいのが屈曲のエクササイズです。腹筋を使って、肋骨を内旋させ、息を吐く呼気機能の向上を目指していきます。後部連鎖筋群の抑制ができていれば後縦隔の拡張も起こり、腰を反らさずとも吸気を行える能力が獲得できますので、腰痛患者にとってこのフェーズは欠かせません。※椎間板ヘルニアなど屈曲で誘発される病態も多分にありますので常識の範囲内で行ってください。

伸展

屈曲の次に獲得すべき可動性が伸展です!

脊柱伸展運動は腹筋群と背筋群の協調運動であり、明らかに屈曲より制御が難しいもので屈曲の制御能力がある程度アベレージではないと腰椎を圧迫してしまうので注意が必要です。腹筋群の深部感覚を屈曲のフェーズで十分に高めておく必要があります!※腹筋は常に伸長性(伸長性収縮の制御の方が短縮性制御より難しく、脳の活動も伸長性収縮の方が高まる、)で働き続けなければ腰部を圧迫してしまうだけなので前提として正しく屈曲の制御能力がある必要がある。

  1. うつ伏せになり、足を肩幅に開きます。
  2. 手を顔の横に置き、手のひらを床につけます。
  3. おへそを引き上げながら息を吸い、上半身をゆっくり持ち上げます。
  4. 背中と首がまっすぐになるよう意識し、限界まで上げたら止めます。
  5. ゆっくり息を吐きながら、おへそ、胸、頭の順に下ろしていきます。

これを1日に5〜10回程度繰り返します。

回旋

脊椎の圧迫ストレスが最も大きいとされるのが回旋運動です。つまり脊椎の屈曲伸展ができないと、もしかしたら次の日に腰が痛くなると言った主訴が生まれるかもしれません。回旋運動を言語化すると胸部回旋側の肋骨の外旋、反体側の肋骨の内旋となる、つまり屈曲と伸展制御ができないと回旋を制御することは難しくなるわけでして、コレって同側のプル&対側のプッシュとも言い換えれますよね?

だから事前に屈曲と伸展の制御能力がないと回旋プログラムが難渋しまっす!


シンプルに腰部の回旋代償が多いので注意が必要です!

最終的には…

痛みのない経験を多種多様な動作で獲得したいので、プログレッションとして、ストレングス、ムーブメントトレーニングなどあらゆる能力が求められる運動を経験していきたいのが理想です。

基本的な脊柱の可動性を獲得し、そこに外部負荷も加える、外乱も加える、移動も加える、あらゆる環境下で腰椎に負担のかからない動作パターンの構築と痛みの認知の是正、ここが慢性腰痛のゴールになると私は個人的に考えております。

良くも悪くも安定した環境下でゆっくりと同じような運動を繰り返しても神経の可塑的変化は起こりません!常に新鮮な刺激を提供しましょう!運動指導の大原則です!

以上、腰痛をシンプルに!そして腰痛の全体像でした!

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