股関節の基礎「屈曲筋」

今回は股関節屈曲の動きに関わる筋、そして筋による能動的な制御を見ていきたいと思います。

目次

股関節の運動に関与する筋

股関節の運動に関与する筋は21個あり

屈伸、内外転、内外旋の自由度3の関節として

  • 屈曲
  • 伸展
  • 内転
  • 外転
  • 内旋
  • 外旋

の6種類の運動が可能になります。

股関節は3次元に可動するため、同一筋であっても肢位により運動の作用方向が異なる場合が多くあります。
このことを踏まえて筋を見ていきましょう。

屈曲筋

股関節屈曲に関与する筋は

  • 大腿直筋
  • 腸腰筋
  • 長内転筋
  • 大腿筋膜張筋
  • 縫工筋
  • 恥骨筋

となっており今回はこの中から現場で問題となりやすい筋を抜粋してご紹介していきます。

腸腰筋

起始・①大腰筋:第12胸椎と第1〜4腰椎の椎体側面、椎間円板の側面(浅層)、第1~5腰椎の肋骨突起(深層)
   ②腸骨筋:腸骨窩
停止・小転子
作用・股関節の屈曲

この筋は強力な屈曲筋として長い収縮距離を持ち、直立姿勢や歩行において重要な筋となります。

腸骨筋

前額面と水平面上での作用はほぼなく、股関節の屈曲運動、座位での骨盤前傾で筋活動を認めます。
また、歩行においては立脚期中期以降、遊脚期のはじめに活動します。

大腰筋

股関節の屈曲と共に、腰椎の側方に位置するため腰椎を同側に側屈させるモーメントアームを有します。
また、歩行においては左右の下肢が接地する2回のタイミングで活動する。

角度による作用の変化

同じ股関節屈曲筋である大腿直筋は股関節屈曲10~30度の間で強いトルクを発揮します。しかし。股関節伸展位ではモーメントアーム減少、屈曲位では筋長の低下により発揮トルクは低下します。一方腸腰筋は股関節屈曲位、伸展位でもモーメントの変化は小さく、発揮トルクも保たれます。そのため股関節伸展位、深屈曲位では、大腿直筋よりも腸腰筋の発揮トルクが相対的に大きくなります。

さらに、

大腰筋は股関節中間位および、内転位、屈曲位では内転作用を有し、股関節外転、外旋位では外旋、内旋位では内転作用を持ちます。
腸骨筋は、股関節外転位では外転、内転位では内転の作用をもち、水平面上では常にわずかな内旋作用を持ちます。

腸腰筋の評価については下記をご覧ください。

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大腿直筋

起始・下前腸骨棘、寛骨臼上縁
停止・膝蓋靭帯を経由して脛骨粗面
作用・股関節の屈曲、膝関節の伸展

大腿直筋は、股関節屈曲において最も寄与率の高い筋であり、スクワット動作や歩行、姿勢制御など重心位置の変化に対応するために活動します。

特に重心位置を後方にするなど外的な膝関節屈曲モーメントあるいは、股関節伸展モーメントが増加した姿勢では強く活動します。

本来、大腿直筋をはじめとする大腿四頭筋は重心の前後移動に対して安定性を確保します。


例えば、解剖学的肢における重心線は、外耳道、軸椎の歯突起、胸椎の前方、股関節のやや後方、膝関節のやや前方、足関節のやや前方(立方骨、舟状骨付近)を通りますが、膝をやや屈曲させると、重心線は膝関節の後ろを通り、大腿四頭筋が遠心性に働き、後ろに倒れるのを防ぐことで安定します。

重心が常に後方あり、大腿前面の筋が遠心性で働くことで安定しているのがスウェイバック姿勢ですね!
一方で、大腿直筋の伸張性低下や筋力低下により能動的な制御機能が失われると、直立位を保つために、膝関節を過伸展させ、重心軸を膝の前に持っていくことになります。この時膝関節における制御機能は筋による能動的なものではなく、膝関節後部の関節包や靱帯といった受動的なものになってしまいます。

これらのことから大腿直筋は過活動になりやすいからストレッチをするという思考だけでなく、遠心性で収縮をコントロールできるかどうか、そして隣接する関節、拮抗する筋の活動まで見る必要がありますね!

大腿筋膜張筋

起始・上前腸骨棘
停止・腸脛靱帯
作用・股関節の屈曲、外転、内旋

大腿筋膜張筋の主要な働きは、股関節の外転や片足荷重の際の骨盤水平保持といった臀筋群と共同的に関節を安定させることですが、現場では過緊張を呈することが多く、屈曲や外転といった動作だけでなく「内旋」を有していることで「関節の求心位」からの逸脱、拮抗筋の抑制を誘発してしまいます。

シュミレーションを用いた研究では、腸腰筋の活度が50%減少した場合、屈曲作用を持つ大腿筋膜張筋、縫工筋、長内転筋の筋張力は200%以上に増加するとされています。

つまり、見かけ上まっすぐな屈曲を作るためには大腿筋膜張筋や縫工筋による外転、内旋、外旋方向の作用と、拮抗する内転筋群がそれぞれ関節に対して大きな力を発揮しなければいけなくなるため、関節負荷が増大してしまいます。

水平面においても大腿筋膜張筋が優位になると、外転運動時に屈曲あるいは内旋方向に変位しやすくなり、股関節の外旋筋が発揮する張力を拮抗筋である大腿筋膜張筋が阻害することになり、結果として筋力が低下してしまいます。

運動時の筋活動パターンは個人差が大きいものの、変形性股関節症患者は下肢筋全体に対して大腿筋膜張筋の活動が相対的に高くなっていることが報告されています。

これらのことから「相対的」という点に注意し、静的アライメントや股関節屈曲時、外転時に大腿筋膜張筋の影響で内旋が見られる場合は、大腿筋膜張筋の伸張性と同時に腸腰筋、外旋筋の筋力を評価する必要があることがわかります。

長内転筋

起始・恥骨上枝と恥骨結合の前面
停止・大腿骨粗線:粗線の上部1/3の内側唇
作用・股関節内転、屈曲(屈曲60~70度まで)、伸展(屈曲80~90度以上の時)

長内転筋はその名の通り、股関節の内転に作用しますが、恥骨(骨盤の前面)から大腿骨粗線(大腿骨の後面)に付着するため股関節屈曲、伸展にも作用を持ちます。

股関節伸展0度から屈曲角度が60~70度までは屈曲に作用しますが、60~70で屈伸軸に一致し、80~90度以上の屈曲位では作用の転換が起こり伸展を補助します。
補足:大内転筋を除く股関節の内転筋群は同様の作用の逆転が起こる。

したがって内転筋の短縮や過緊張は、外転の制限だけでなく股関節の屈曲、伸展可動域の制限にも関与することがわかります。また歩行時や片足バランスでは、骨盤の支持に臀筋と内転筋群の協調が重要な役割を担うため、可動域制限の有無は確認する必要があります。

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