
臼蓋形成不全に対してピラティスでどう戦う?


そのような主訴の方はピラティススタジオでも多くご来店されます。今回は臼蓋形成不全に対してピラティスを武器にどのように戦うのか?病態の基礎的なところから解説していきます。
結論、臼蓋形成不全に対して運動療法を行ったとしても、当然ですが、直接的に骨の形態を変えることはできません。「症状の緩和」や「機能改善」「二次的な変形性股関節症の予防」に寄与することを目的に戦うことが「運動療法の主な目的」となります。
臼蓋形成不全に対して適切な介入ができることで、将来的な変形性股関節症の予防に繋がりますので、ぜひこの機会に理解を深めていきましょう。
目次
臼蓋形成不全とは

臼蓋形成不全は、股関節の骨盤側にある「臼蓋」と呼ばれる部分の発育が不十分な状態を指します。この状態では、大腿骨頭を十分に覆うことができず、股関節の安定性が損なわれます。
※正常な股関節では、大腿骨頭の80〜90%程度が臼蓋に覆われていることが理想的とされ、また日本の中高年女性の変形性股関節症の約80%は臼蓋形成不全が原因とされています。
臼蓋形成不全の原因は
臼蓋形成不全の原因には、先天的な要因と後天的な要因があります。
■先天的要因
遺伝的
臼蓋形成不全症には遺伝的な傾向があることが示唆されています
先天性股関節脱臼
先天性股関節脱臼に起因する臼蓋形成不全症があり、これは先天的な要因が強く関与しています。
発育不全
先天性股関節脱臼がなくても、臼蓋の発育が不完全な場合があります。
■後天的要因
後天的な臼蓋形成不全は、成長過程で正常な寛骨臼の形成が正しく進まないことによって生じます。
成長期の要因
・幼少期の股関節の病気や怪我
・成長過程での正常な寛骨臼形成の阻害
環境要因
・思春期における活動量の増加
・出産による体重増加
生活習慣
・不適切な負荷や運動
・ハイヒールの着用
・重い荷物の持ち運び
これらの要因により、臼蓋の発育が不完全となり、大腿骨頭を十分に覆うことができない状態になります。
結果として、股関節の不安定性が生じ、関節軟骨への過剰な負荷がかかることで、将来的に変形性股関節症へ進行するリスクが高まるというわけですね!
必ずしも単一の原因によって引き起こされるわけではなく、複数の要因が組み合わさって発生することが多いと考えられています。そのため適切な体重管理や股関節周囲の筋力トレーニング(筋機能向上)など、予防的な対策を行うことが重要です。
臼蓋形成不全の症状
小児期の臼蓋形成不全では、通常明確な症状は現れません。
しかし成長に伴い以下のような問題が生じる可能性、また臼蓋形成不全による構造的な影響は以下の順序で起こりやすいです。

臼蓋形成不全により、
①寛骨臼と大腿骨頭の適合性が低下
②大腿骨頭の外上方偏位が生じやすい
③そのため荷重ストレスが寛骨臼の外上方に集中
④結果として変形性股関節症のリスク因子となる
この影響(特徴)を理解しておけば、インストラクターがどのようなアプローチをすることが良いのかも容易かと思います。
臼蓋形成不全の評価
基本的にはX線のような評価でなければ正確に判断することはできません。股関節に違和感や痛みがある場合は速やかに医療機関を受診することが推奨しましょう。
そして臼蓋形成不全による変形性股関節症では、過前捻が有意に多いことが報告されています。1)
つまり過前捻をクレイグテストで判断できた場合、尚且つ股関節に違和感を訴えるクライアントさんがご来店された場合は、臼蓋形成不全を疑う判断材料となりますので、ご説明したうえで医療機関の受診を推奨しても良いかなと思います。(個人的にはそうしております。)
運動療法の役割と限界

臼蓋形成不全は構造的な問題であるため、運動療法によって直接的に骨の形態を変化させることはできません。
じゃあ運動療法ではどう戦うのか?何を戦うのか?
結論、以下の通りです。
①股関節の安定性向上
②負担の軽減≒症状の緩和
③結果として①②を行うことで
二次的な変形性股関節症の予防または進行遅延に繋がる
(ここをゴールとして戦いたい)
股関節の安定性とは
通常、臼蓋の被覆率は85%前後になりますが、臼蓋形成不全の場合、臼蓋の被覆率は平均50〜60%になります。デフォルトで股関節の安定性が損なわれているわけです。
この状態だと筋機能にも問題は起こりやすくなりますが、ではどのようにして被覆率を増やす戦略を人は取るのでしょうか?
結論、被覆率を増やすために、受け皿側である骨盤が積極的に前傾するといった機能的代償を図ります。※骨盤の前傾をすると、骨盤の後傾をするよりも被覆率が15%増加するという論文結果もあります。
動的安定化機構
つまりは、骨盤の後傾を過度に促すこともリスクになる可能性があるということです。だって骨頭の被覆率を下げるから!
そして股関節の安定性は「静的安定化機構」「動的安定化機構」によって成り立っていますが、我々が戦うのは「動的安定化機構」です。
端的に言えば筋機能を向上しましょうに尽きますが、何故かとうと「骨頭を臼蓋に対して求心位に保ちたいから」それ以上でもそれ以下でもございません。
筋機能低下により、求心位を保持できなくなると、関節内におけるmicro instabilityを引き起こすことで関節唇などの関節周囲のストレスを増強させますので、特に股関節深層筋群の機能は選択的に向上するべきでしょう。
股関節不安定性に対する運動療法
股関節不安定に対する運動療法で獲得したいものは主に以下の項目となります。
ピラティスが得意な領域が非常に多いのが一目瞭然ですね。
股関節周囲筋の強化
特にインナーマッスルのエクササイズを行い、関節の安定性を高める
適切な動作パターンの習得
支える面積が少ない関節構造でも負担の少ない方法で動くことを目指す
柔軟性の改善
骨盤や腰椎の柔軟性を向上させ、動きの中のストレスを軽減する
バランス訓練
全身的な協調性とバランス能力の向上を図る。
日常生活動作の指導
過度な負担を避けるための動作指導を行う。
初期の介入で獲得したいのは深層筋に対する介入でしょう。深層金は、筋の収縮によって骨頭を寛骨臼に引きつけることにより、関節の安定化に寄与します。
加えて、筋紡錘の密度が高いことから感覚器としての機能も有しているため、動作を改善するうえでも欠かせない筋です。
筋紡錘
筋の長さとその変化速度を感知する受容器であり、関節運動にとって重要な役割を担っている。
代表的な深層筋として「小臀筋」「梨状筋」のエクササイズをご紹介します。
小殿筋に対する介入
小殿筋は股関節内転位から外転運動と比較し、股関節外転からの外転で高い活動が認められます。2)
そのため小殿筋のトレーニングは側臥位での股関節外転からの外転運動が非常におすすめです。注意点として、股関節屈曲代償が入りやすく、そうなることで大腿筋膜張筋優位の外転動作となりますので、ご指導される際は代償を見抜けるよう動作を注意深く観察しておきましょう。

梨状筋に対する介入
梨状筋は股関節60°屈曲位において股関節回旋作用が減少し、外転作用が中心となります。3)そのため梨状筋を選択的に活性するには側臥位にて股関節屈曲60°でのクラムシェル(股関節外転・外旋)が推奨されます。
骨盤及び腰椎の回旋での代償が生じやすいため、しっかりとコントロールさせた状態で行うことが重要である。クライアントの手を使い骨盤の動きをしっかりとモニターさせたり、インストラクター側が手で止めるなど工夫したい。

内閉鎖筋に対する介入
内閉鎖筋は股関節90°屈曲位において股関節回旋作用が減少し、外転作用が中心となります。3)
参考文献
1)畠山 智行ら:大腿骨頸部前捻角が股関節屈曲角度に及ぼす影響
2)Kumagai M, Shiba N, Higuchi F, Nishimura H, Inoue A. Functional evaluation of hip abductor muscles with use of magnetic resonance imaging. J Orthop Res. 1997 Nov;15(6):888-93.
3)木下一雄:股関節深層筋群のコンディショニングと下肢運動連鎖,運動連鎖からみた下肢スポーツ障害,臨床スポーツ医学,30(3):269-277,2013.)