
股関節の基礎「関節の可動域」

皆さんは股関節の関節の自由度、各運動方向の参考可動域が瞬時に思い浮かぶでしょうか?
- 股関節の詰まり改善
- 下半身の張り改善
- ヒップアップ
一見これらのお悩みに対して特別なアプローチが必要と思いがちですが、まず重要なのは
「正常な関節運動から逸脱しているかどうか」です。
ここを知らずしてメソッドに飛びついてしまうと、再現性のないアプローチになってしまいますので、本コラムで股関節の基礎として正しい関節運動を抑えましょう!
目次
股関節の可動域と制動
股関節は荷重関節として、体重という大きなストレスに耐える支持性を有しています。また、屈伸、内外転、内外旋の自由度3の自由度が高い関節になっています。

股関節の可動域を制動するためには、動きの主となる「動作筋」と反対の作用を持つ「拮抗筋」があるとともに、靱帯や骨による受動的な制動があります。

これらの制動は隣接する膝関節や体幹、肢位の影響を大きく受けており
例えば股関節の屈曲可動域は、膝関節屈曲位ではハムストリングスが弛緩するため120度程度の大きな可動域を有しますが、膝関節伸展位ではハムストリングスの緊張により90度程度まで減少します。
股関節の伸展においても、膝関節屈曲位では大腿直筋の緊張により可動域が減少します。
これらのことから動作スクリーリングや、局所的な可動域を評価する際には、ただ一括りに「もも裏が硬い」「前もものが硬い」だけでなく、隣接する関節の影響を受けているのかどうか、単関節筋の影響、多関節筋の影響それぞれ「肢位」を変えることで明確にする必要があります。
日常生活に必要な可動域
日常生活では、靴ひもを結ぶ、椅子から立ち上がるなどより3次元の動きを複合的に行うため、参考可動域だけでなく、日常生活に必要な可動域を把握することも重要です。

ここを把握することで、お客様の
- 階段の登り降りで股関節が詰まる
- 立ったまま靴紐を結べるようになりたい
- ものを拾うときに腰が痛い
といったお悩みに対して股関節の可動域の影響を受けているかどうかを確かめることができます。暗記になってしまいますが、実際のお客様の動きに照らし合わせながら覚えていきましょう。
各運動における可動域の評価方法
股関節の運動には骨盤、腰椎の動きが連動するため「複合体」として股関節を捉えることが重要になります。
関節可動域の評価を通してこの複合体のどこに問題があるのか特定し、改善のためのアプローチを行なっていきますので、今回はまず、股関節の正しい動きと基準、代償動作を覚えていきます。
屈曲
股関節の屈曲参考可動域は125度ですが、寛骨と大腿骨の筋肉、関節唇などの軟部組織の影響で股関節単体の屈曲は70~90度になっています。見かけ上屈曲が125度まで行えるのは、腰椎の屈曲と、骨盤の後傾を伴っているからであり、屈曲の可動域を評価する際には、股関節に制限があるのか、腰椎や骨盤に制限があるのかを判別する必要があります。

また、対側の股関節の影響を考慮する必要もあります。
例えば右の股関節屈曲可動域を評価する際に、左の股関節は伸展位となります。この際左の股関節に伸展制限がある場合、評価の開始肢位の時点ですでに骨盤は前傾位になるため、右股関節の屈曲角度は小さくなります。
以上のことを踏まえ屈曲の可動域を見ていきましょう。
手順
- 仰臥位で検査側の膝をもり骨盤の動きを観察するため腸骨に触れる
- 骨盤の後傾が発生する70~90度付近で股関節の屈伸を繰り返し、骨盤が後傾する角度を確認する
- 腰に手、またはタオルを入れ同様の動作を行い角度を確認する

確認すること
2.の検査中に70度より手前で骨盤が後傾する場合は股関節伸展筋の伸張性低下を疑います。また、120度付近まで骨盤の後傾が確認できず、股関節のつまりを感じる場合は腰背部の筋(脊柱の伸展筋)の伸張性低下による股関節前面筋のインピンジメントを疑います。
さらに3の検査では、タオルまたは手で腰椎の屈曲、骨盤の後傾を制限するため、90度付近で屈曲が止まります。
この動作中に股関節のつまりを感じない場合は、2の”腰背部の筋(脊柱の伸展筋)の伸張性低下による股関節前面筋のインピンジメント”の疑いがより強くなるため、腰背部筋のストレッチなどアプローチを行います。
(具体的なエクササイズは次回以降ご紹介していきます。)
2.3.ともに股関節が詰まる場合は、股間節前方組織の柔軟性低下を疑うことができますので、股関節前面筋のストレッチを行います。
股関節の屈曲可動域という一つの評価項目でも「骨盤の固定」の有無で少なくとも
- 股関節伸展筋の伸張性
- 股関節前面筋の柔軟性
- 脊柱伸展、骨盤前傾筋の伸張性
- 対側の股関節屈筋群の伸張性
を確認することができますね!
対側の股間節屈曲筋群の伸張性についてはこちらをご覧ください↓
股関節の伸展制限をトーマステストとピラティスで応用
伸展
股関節の伸展可動域は約15度であり、膝の屈曲により10度まで減少します。
股関節の伸展制限には、拮抗筋である股関節屈曲筋群の伸張性が関わりますが、どの筋による制限なのかを判別するために股関節の内外転、膝関節の屈伸角度を変化させて評価する必要があります。
股関節伸展制限に関わる筋についてはこちら↓
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手順1
今回は腹臥位と仰臥位の2種類での可動域評価をご紹介します。
- 腹臥位で股関節の内外転0度で膝関節を屈伸させる
- 骨盤に触れながら骨盤の前傾や回旋の代償を確認する
- 股関節を外転させ同様の動作を行う
確認すること
股関節内外転0度よりも外転位で膝の屈曲可動域が大きくなる場合は、大腿筋膜張筋の伸張性低下を疑うことができます。
また、骨盤を徒手的に固定すると膝関節が問題なく屈曲する場合は股関節屈曲筋の伸張性低下だけでなく、骨盤の安定筋である腹筋群の影響を疑うことができます。
手順2
- ベットから下肢が出るように仰臥位になる
- 両膝を抱え骨盤に触れながら骨盤が後傾し始める位置を探す
- 70~90度の間で骨盤が後傾し始める位置で検査とは反対側の膝をお客様に抱えてもらう
- 膝窩(大腿骨側)を両手で支えゆっくりと股関節を伸展させていく
- 股関節の伸展とともに膝の伸展を確認
- 膝の伸展が見られるタイミングで股関節を外転させていく
- 外転位の状態で股関節を伸展させていく
- 股関節の伸展とともに膝の伸展を確認
- 膝関節伸展位の状態で股関節を伸展させていく
確認すること
4.の最中はお客様の緊張が生まれないように注意が必要です。必ず体を寄せ両手を動かしていきます。また、力が入ってしまう場合は少し下肢を揺らしながら股関節を伸展させていきます。
5~6.で膝の伸展が見られる場合、膝関節を跨ぐ股関節屈曲筋である大腿直筋、大腿筋膜張筋の両方の影響が考えられます。
そこで、外転させていくことで股関節の外転筋でもある大腿筋膜張筋は収縮ポジションとなり伸展制限の要素から除外することができます。
つまり、外転ポジションで股関節の伸展可動域が大きくなるのではあれば、大腿筋膜張筋の伸張性低下を疑右ことができます。
さらに9で膝関節を伸展させ、股関節の伸展を行うと、大腿直筋を伸展制限の要素から除外することができるため、腸腰筋の伸張性を確かめることができます。
このように股関節の伸展に加えて、外転、膝関節の伸展を順番に見ていくことでどこの筋が伸展制限の原因となっているのか確認することが可能です。
外転
股関節が外転の可動域は45度となっていますが、外転制限、つまり内転筋の伸張性については二関節筋である薄筋の影響の有無に注意する。
手順
- ベッドの端から膝関節が屈曲できるよな状態で仰臥位になる
- 固定店を作るために反対側の股関節は外転させておく
- 一方の手で大転子を触診しもう一方の手で股関節を外転させていく
- 骨盤の挙上、前傾の代償が出る場所まで外転させていく
- 代償が見られる場合は膝を屈曲させ可動域が大きくなるか確認する
確認すること
大転子、上前腸骨棘に触れることで、股関節の外転なのか骨盤の挙上なのかを触知していきます。また、膝伸展位での股関節外転で代償が出た際に膝を屈曲させ可動域が大きくなる場合は、二関節筋である薄筋の影響を疑うことができます。

内転
内転可動域、つまり外転筋の伸張性は20度となっていますが、股関節内外旋ポジションを操作するこで大腿筋膜張筋や中臀筋前部繊維の関与を確認することができる。
手順
- 側臥位で対側の股関節は屈曲位にする
- 股関節伸展0度の位置から内転方向に動かす
- 骨盤の代償動作が出た位置を確認する
確認すること
大腿筋膜張筋や小臀筋、中臀筋前部繊維が制限因子の場合は股関節外旋位で可動域の減少を確認することができます。
内旋/外旋
股関節の内旋、外旋可動域はそれぞれ45度であり、筋の伸張性とともに、大腿骨の前捻角、骨盤の安定性を確認することができます。
大腿骨の前捻角についてはこちらをご参照ください。
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- 片方の手は骨盤に添え、回旋代償が出る位置を確認する
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確認すること
股関節の内外旋は骨の形状により可動域に差が出やすくなるため、可動域評価以外にも、エクササイズ中に内外旋可動域の差が大きい場合は前捻角の問題や臼蓋形成不全等の問題が考えられるため、骨盤の代償だでけでなく大転子の動きにも注目していきましょう。

まとめ
今回は股関節の参考可動域と可動域評価について解説していきました!
姿勢や動作、エクササイズというその瞬間を適切に評価するためには、基準を持つことが重要になっていきますので、ぜひ今回の内容を暗記して現場で活用してみてください。