股関節伸展動作を深掘り

所謂「脚痩せ」にお悩みのクライアントさんは非常に多いですが、そのほとんどが「股関節伸展動作」に問題があることが多いです。

  • 股関節伸展可動域の低下
  • 股関節伸展時の代償動作
  • 股関節伸展時の筋動員パターン

上記が様々な原因から複合的に混ざり合い、股関節の伸展が円滑に遂行されることなく、歩行などのADLに影響を及ぼし、脚が太くなるといった結果が生まれます。

もちろん股関節伸展可動域に問題がある状態で、トレーニングを行うこともまた、狙った効果を出すことは難しく、余計な筋活動や代償動作を助長する結果となります。

股関節伸展制限があると、スクワットやランジ、ヒップスラストなどのエクササイズを行い、大臀筋の筋力や筋量が向上しようにも、その他の腰部や股関節屈筋群の代償を防ぐことは困難となり、脚痩せは難しいということです。

週に1回1時間のトレーニングで大臀筋に刺激を与えても、その他の日常生活の中で機能的に大臀筋が働く環境を生み出した方が、痛みや不調だけではなく、脚痩せなどボディメイク的観点からも有用ということを最初に言及しておきます。

臨床上、多く出くわす股関節伸展制限を深掘りしていきましょう。

目次

股関節伸展と歩行

股関節伸展制限があると、何がいけないのか?

歩行において股関節屈筋群の伸長刺激が下肢の振り出しのトリガーとなっており、(Sherrington 2013)

股関節伸展制限があり、立脚終期の股関節伸展が制動された状態というのはすなわち努力的な下肢の振り出しが起こることと同義です。

健常人の遊脚期では股関節最大伸展位から股関節屈曲における大腿の前方への動きに伴い,重力により膝関節の伸展モーメントが生じるために下肢の振り出しに大腿四頭筋の筋活動は必要としない。股関節伸展制限は,歩行速度の低下、歩行中の腰部への負担の増加、大腿四頭筋の筋活動が非効率となることが明らかとなった。

西川 徹ら:股関節伸展制限が歩行中における脊柱起立筋と大腿四頭筋の筋活動に及ぼす影響

股関節伸展制限を呈すると股関節最大伸展位から股関節屈曲における大腿の前方への動きが阻害されることから,股関節屈筋群の筋活動が高くなってしまうことが考えられます。

つまり、股関節伸展制限≒歩くたびに股関節屈筋群の過使用が起きているということです。

このように股関節伸展制限は必ず歩行に問題が起きます。

さらに着目すべきは大臀筋の機能が失われてしまうということ。

大臀筋は歩行において重要な役割を持ちます。

大殿筋は、歩行の初期の立脚において機能的にほとんどのサポートを生み出し、股関節、膝、足首の崩壊を防ぎます。1)

つまり円滑な歩行に大臀筋の機能は欠かせません

荷重応答時、体重の60%が0.02秒以内に伝達され、その結果、前肢に急激な荷重がかかり、この瞬間に、大臀筋が仙腸関節を圧縮して安定性をもたらします。

仙腸関節は可動性がほとんどなく、非常に安定した関節ではありますが、この安定性には、周囲の下肢と背中の筋肉が大きな部分を占めており、歩行分析研究により、私たちが歩くときに筋肉の活性が規則正しく行われ、それが関節の効率的な安定化と下肢への効果的な体重移動に寄与しています。

そこで股関節伸展制限があり、歩行時に大殿筋の不適切な働きがあると、仙腸関節における衝撃吸収機構の欠陥が生じ仙腸関節痛の因子になると言われています。2)

そして仙腸関節痛患者において、ハムストリングスの活動が早期に発症することが示されており、これは大臀筋の弱さを代償しているものと考えられています。3)

これは臨床上でも協働筋として、大臀筋の弱化をハムストリングスで代償してしまうケースは散見されるところです。

またこのような文献も併せてご紹介します。

大殿筋が抑制された被験者では、腰椎を安定させるためにハムストリングスと脊柱起立筋の早期の活性化が起こった。


Clark BC, Manini TM, Mayer JM, Ploutz-Snyder LL, Graves JE. Electromyographic activity of the lumbar and hip extensors during dynamic trunk extension exercise. Arch Phys Med Rehabil. 2002 Nov;83(11):1547-52. 

半腱様筋に対する大殿筋の活動性低下は、同側の脊柱起立筋の筋活動上昇と相関する

Tateuchi, Hiroshige, et al. “Balance of hip and trunk muscle activity is associated with increased anterior pelvic tilt during prone hip extension.” Journal of electromyography and kinesiology 22.3 (2012): 391-397.

つまりは、大臀筋の機能不善は、脊柱起立筋の過使用を疑うこともできます。

全て要約すると

  1. 股関節伸展制限≒大臀筋の機能不全がある
  2. 大臀筋は歩行時に重要な役割がある
  3. 特に荷重応答にて仙腸関節の安定性に寄与
  4. つまり仙腸関節痛の因子になり得る
  5. 代償にハムストリングス、起立筋が頑張る

です。

反り腰姿勢の方は

  • 大臀筋の弱化
  • 腰部起立筋の過活動
  • 腰椎の分節不全

があるのも頷けます。

股関節伸展の評価

股関節伸展の筋動員パターンの評価として、伏臥位で行う、膝関節伸展 0 °位の一側下肢伸展挙上動作(Prone Hip Extension:以下PHE)について、機能解剖学的調査をご紹介します。

股関節の可動域を拡張し、強化するエクササイズとしても、評価としても有用です。

<画像引用:>https://www.researchgate.net/publication/263548276_Interrater_agreement_sensitivity_and_specificity_of_the_prone_hip_extension_test_and_active_straight_leg_raise_test

目的
股関節伸展時の筋活動、機能評価(大臀筋、ハムストリングス、協働筋として脊柱起立筋、拮抗筋である腸腰筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋)

方法
股関節への動きを分離するために、腰部または骨盤の前傾で生じる伸展の量を最小限に抑え、下肢を伸展挙上するように指示。その時の運動パターンを観察する。

PHEにおける正常パターンでは、最初にハムストリングス、大臀筋が活動し、その後対側の脊柱起立筋→同側の脊柱起立筋の順に活動する。4,5)

ここで評価する点は、

  • 正常な股関節の自動伸展可動域に10度の有無
  • ハムストリングスや脊柱起立筋が過活動の有無
  • 大臀筋の収縮感

です。

注意点としては、骨盤前傾の代償の有無、腰椎の伸展代償がないか観察しましょう、代償を見逃すと評価にならないことになります。

伸展可動域に制限があり、それが股関節屈筋群なのか運動制御不全によるものなのかも合わせて評価できると、よりその後のプログラム立案が正確なものになります。

PHEの代償パターン

PHEにおける陽性所見としてご紹介しますが、これはそのまま股関節伸展エクササイズの代償パターンとしても活用できます。

代償1:膝の屈曲

ハムストリングスの過緊張、殿筋に対し優位に働いている状態(大臀筋の弱化)では、膝関節の屈曲が見られる。

代償2:腰椎の前弯と骨盤の前傾を伴う下肢挙上

脊柱起立筋、広背筋、股関節屈筋群の過緊張、脊柱屈曲制御不全などがあると、下肢挙上時に腰椎の前弯や骨盤の前傾が見られる。

股関節伸展可動域の減少

股関節屈筋群の過緊張や大臀筋の弱化があると、股関節伸展可動域が10度出ない。

股関節伸展の制限因子

股関節伸展の制限因子として考えられるものは、当然股関節屈筋群のタイトネスが王道です。

・健常者16名を対象とした調査で、大腿筋膜張筋の活動が股関節伸筋(大殿筋、半腱様筋)の活動に対する増加と股関節伸展時の骨盤前傾姿勢の増加は相関すると報告

Tateuchi, Hiroshige, et al. “Balance of hip and trunk muscle activity is associated with increased anterior pelvic tilt during prone hip extension.” Journal of electromyography and kinesiology 22.3 (2012): 391-397.

特に大腿筋膜張筋の過活動は、股関節伸展制限に多く関与します。

反り腰、外ももの張り、お尻のたるみはセットで起こります。

大腿筋膜張筋のタイトネスがないか、Over TestThomasTestにて評価し、股関節伸展の阻害要因は予め潰した状態で、伸展獲得の運動療法に進めると良いでしょう。

Ober’s test

Ober’s testとは、側臥位で下肢の運動機能として一般に「大腿筋膜張筋(Tensor Fasciae Latae: THL)」や「腸脛靱帯(Iliotibial band: ITB)」の硬さを評価するために使用されます。6)

原法は膝関節を屈曲させてテストしますが、伸展させてテストする変法(modified Ober’s test)があり、私は臨床的にTHLかITBで分別するため、よく使用しています。

Oberテストは、テストする側を上にした側臥位でテストします。

詳しいやり方と陽性・陰性の判断について説明しましょう。

テストする際の姿勢

・患者をテストする側を上にした側臥位とします
・下側の股関節と膝関節を屈曲させ、腰椎の前弯を減らします
・検者は患者の後方に立ち、上側の骨盤と大転子を固定します
・検者はもう一方の手で、上側の膝関節から遠位の下腿部を保持し、膝関節を屈曲させます
・上側の股関節を伸展、外転させて、空間で保持します

テストの実施

・上側の下肢の支えを減らして、ゆっくりと下方へ下肢を下ろします:股関節内転
・その際に、上側の股関節が内旋や屈曲しないように骨盤を固定します:
・股関節が内旋、屈曲するようであれば、腸脛靱帯が短縮している可能性があり、正確にテストされていません

陽性・陰性の判断

・上側の下肢が水平よりも下方へ下がり、疼痛が生じなければ、陰性です。
・上側の下肢が下がらずに、股関節が外転したままで股関節の内転を矯正することで、患者が膝関節の外側に疼痛を認めるようであれば陽性

※本来は疼痛の有無を判断するテストですが、ここでは大腿筋膜張筋の柔軟性を目的としますので、股関節の内転が十分で床に膝が触れられば概ね問題なしと推察していきます。

ThomasTest 変法

ここでは股関節屈筋群の柔軟性を検査する目的で使用します。

テストする際の姿勢

  • 患者は仰臥位となる。
  • 非検査側の股関節を屈曲し、両手で抱える。
  • 非検査側の股関節を屈曲させ腰椎の前弯を消失させます。

陽性・陰性の判断

  • 検査側の下肢が挙上、もしくは腰椎の前弯が増大すれば陽性

評価ポイント

股関節屈曲による骨盤後傾で反対側の股関節屈筋群が短ければ膝関節は屈曲しますので、動作を誘導しながら評価を行っていきます。※股関節置換術を受けた患者に対しては、脱臼を引き起こす可能性がありますので、行うべきではありません。

Thomas testにて検査側の股関節の向きなどで、「股関節屈筋群の中でもどの筋の柔軟性低下があるのか」ヒントとなりますので、こちらも合わせて参考にしてみてください。

股関節外転

股関節外転→大腿筋膜張筋の短縮を示唆

股関節外旋

股関節外旋→腸腰筋の短縮を示唆

股関節伸展可動性獲得の運動療法

まずは大腿筋膜張筋の抑制から行い、骨盤の前傾や腰部伸展のリポジションを図ります。

もちろん広背筋など、その他にも骨盤前傾、腰部伸展などを誘発する筋はありますので、それぞれ評価しておく必要が有りますので、臨機応変な対応が求められます。

今回はコレクティブエクサササイズを中心に筋の不均衡を是正していきます。
※あくまでも1つの例として留めておいてください。

コンセートレーションクランチ

90/90ヒップリフト

股関節伸展動作の獲得

ここまでをまとめると、股関節屈筋群の柔軟性可動性脊柱の屈曲制御機能体幹部の動的安定性に問題がないというところまできて、はじめて股関節伸展動作が代償なく円滑に行う素地(運動制御獲得へ)ができます。

※この時点でPHEにどのような変化が起こっているのか改めて評価し直しても良いでしょう。

最後は余計な代償が出ることなく、股関節伸展を行うエクササイズとなります。

腰部の伸展を制限した状態となるため、選択的に股関節伸展運動を誘発することができます。

リフォーマーエクササイズ

リフォーマーを用いた擬似CKCとしての股関節伸展エクササイズです。
※上記が問題なく制御できれば代償なく股関節伸展が行えます。

全く下肢挙上が出ない場合は、

これまで行ってきた「評価→エクササイズの流れ」に見落としがあった可能性が疑えるかもしれません。

問題なく下肢挙上ができ、臀筋の収縮を得られる場合、歩行の推進力にも良い効果が得られますので、即時的に歩容の変化も実感できます。

ぜひ参考にしてみてください。

参考文献

1)Frank C. Anderson:Individual muscle contributions to support in normal walking
2)Vogt L, Pfeifer K, Banzer W. Neuromuscular control of walking with chronic low-back pain. Man Ther. 2003 Feb;8(1):21-8. 
3)Hossain M, Nokes LD. A model of dynamic sacro-iliac joint instability from malrecruitment of gluteus maximus and biceps femoris muscles resulting in low back pain. Med Hypotheses. 2005;65(2):278-81.
4)Kamel, Eman, et al. “Trunk and hip muscles activation patterns in subjects with and without chronic low back pain: A systematic review.” Physiotherapy Quarterly 29.2 (2021): 79-88.
5)荒木茂:マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック,p42,運動と医学の出版社
6)Melchione WE, Sullivan MS. Reliability of measurements obtained by use of an instrument designed to indirectly measure iliotibial band length. J Orthop Sports Phys Ther. 1993 Sep;18(3):511-5.

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