クライアントとのコミュニケーション②「SOAP」の活用

クラインアントとのコミュニケーション①にて


・お客様の明確になっていない悩みや目標をトレーナーが勝手に解釈してはゴール設定で相違が生まれる
・体験での効果測定がうまくいかなかった場合、主訴や評価、仮説を考え直さなければいけない

という内容をご紹介しました。

では、実際どのように主訴の明確化、適切な評価、仮説を組み立てていけばいいのでしょうか?

SOAPを活用し内容を整理することで、トレーナーとお客様の間で適宜確認をとりながら、コミュニケーションをとり計画をたて実行していくことができます。

目次

SOAPとは

SOAPとは
S:Subjective「主観的なデータ」
O:Objective「客観的なデータ」
A:Assessment「SとOから考えられる原因、仮説」
P:Plan「S、Aを改善するための計画」

を表し、医療現場における「問題志向型システム(Problem Oriented System)」のひとつとしてカルテ記載に使用されています。

POSシステムは、患者の持つ「問題」を治療の軸とし、その問題に沿って治療や医療・看護を展開する治療過程のことを指します。

このシステムをトレーニングやピラティス、コレクティブエクササイズの戦略を考える上で活用することで、クライアントの主訴を明確にし、なにが原因なのか、どんな評価を行い、改善のためにはどんなエクササイズが必要で、今なにをしているのかをまとめることができます。

このシステムを感覚で行えている方は多くいらっしゃるかもしれませんが、SOAPでカルテを記載することで、再現性を高め社内やクライアントととの共有が容易になります。

また、SOAPとしてまとめることにより介入で詰まった時に、なにが上手くいっていないのか、どのような仮説が考えられるのか、介入方法を再考するのに役に立ちます。

では、順番に見ていきましょう。

Subjective

Subjectiveデータは「主観的なデータ」「クライアントの主訴」を表します。クライアントの主訴を無視して、評価やトレーナーの見立てだけで介入を決めてしまうと、クライアントとの相違が生まれます。

例えば
・腰が痛いという主訴があるのに、体重や食生活にばかり介入が偏る
・痩せたいという主訴に対し、姿勢やトレーニングのやり方にばかり介入してしまう
・体力をつけ健康を維持したいという主訴に対し、過度な食事制限や、重量を追い求めた介入をしてしまう

トレーナーが学んでいる内容や、その時のホットなトピックに目を奪われ、クライアントを置き去りにしてしまうことは案外無意識のうちに行ってしまっているかもしれません。

そのため、クライアントの主訴をしっかりと取り上げ、記入することで、相違が生まれていないか、トレーナーの見解を押し付けてないかを確認することができます。

もちろんお客様が自分の問題点に気づいていない場合や、抽象的な場合もありますので「問題の具体化」は合わせてコミュニケーションの中で行っていきましょう。

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Objective

Objectiveデータは「客観的な情報」として取り扱い、検査や評価を記載します。

主訴を改善するためには必ず必要なデータですが、トレーナーとしての経験や感覚でここを飛ばしてしまう方は多くいます。

評価をせずに介入するのはただの推測であり、場合によっては危険です。

例えば
・安静時痛や、夜間痛などレッドフラグがあるのに腰が痛いという主訴だけを見て運動を行なってしまう
・腰が痛いから腹筋、膝が痛いから内側広筋といった経験やメソッドに頼り思うような効果が得られない
・体重を落としたいという主訴に対し、食事量や血液検査結果をみず糖質制限を行い体調不良に陥る

効率的にお客様の体を変えるために経験や感覚も大切ですが、その経験や感覚を「事実」として確認するために評価は必ず必要ですので、トレーナー、インストラクターとしての勉強は欠かせませんね!

評価の具体例としてはこちらをご覧ください。

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Assessment

Assessmentは「S、Oから導き出された考え」を表します。

この記載があることで、クライアントや社内での共有の際になぜそのエクササイズを行うのかが明確になります。

例えば
・姿勢を改善したいという主訴(S)に対し、肋骨下角の角度が90度以上であったため(O)、背部の過緊張を疑った
・腰が痛いという主訴(S)に対し、PSLR陽性、ASLR陰性(O)であったため体幹の安定性低下を疑った

などの事実から「仮説」を考えることができます。

こうすることで、背部の緊張を抑制するエクササイズ、体幹を安定させるエクササイズを処方することができます。

このOとAで大切なのは「事実」と「考え」をしっかりと分けることです。

テストに対する結果である「陽性」「陰性」は事実ですが、「体幹部の不安定性が原因」「背部の緊張が落ちれば姿勢が改善される」というのはトレーナーの「意見」となります。

この二つを混同せずに記録することで、仮に仮説が正しくなく、効果が得られない時に再度仮説を立てる材料とないます。

Plan

Planは「S、O、Aから考えられる介入方法、エクササイズ」という行動、結果を表します。

ここにきて行うべきエクササイズが決まるため

・腰痛にはこのエクササイズ
・足が太い人にはこのエクササイズ

といった決まった介入方法は存在しなくなります。もし仮に存在するとしたらSが同じ場合、OやAは皆同じになるはずです。

もちろん姿勢のパターンや呼吸の機能不全など多くの方が当てはまるOやAはありますが、人間の体や生活、ストレスの感じ方などはさまざまであるため、Planを導き出すまでの過程は、さまざまな可能性を考えましょう。

ここまでSOAPの概要をご紹介してきました。

実際にはクライアントとの会話の中でこの過程を考えなければいけません。
しっかりとした主訴(S)がわからなければ、適切な評価(O)はできませんし、評価(O)による「事実」がわからなければ、トレーナーとしての考え、仮説(A)が導き出せません。仮説(A)がなければエクササイズの実行や効果測定も行えません。

では、実際にSOAPに振り分けてみましょう。

・痩せたい
・前屈で指先が床につかない
・呼吸機能不全
・肩が痛い
・股関節の可動域不全
・オーバーテスト陽性
・ゴブレットスクワット
・胸椎の回旋可動域不全
・胸椎の回旋テスト右45度、左70度

答え

・痩せたい(S)
・前屈で指先が床につかない(O)
・呼吸機能不全(A)
・肩が痛い(S)
・股関節の可動域不全(A)
・オーバーテスト陽性(O)
・ゴブレットスクワット(P)
・胸椎の回旋可動域不全(A)
・胸椎の回旋テスト右45度、左70度(O)

いかがだったでしょうか?

SOAPに合わせた記入や思考が身につくとセッションや体験、カウンセリングでの思考の整理、クライアントへの説明、社内の共有がよりスムーズになります。

ぜひ参考にしてみてください。

参考

・Wright A, Sittig DF, McGowan J, Ash JS, Weed LL. Bringing science to medicine: An interview with Larry Weed, inventor of the problem-oriented medical record. J Am Med Inform Assoc. 2014;21:964968.
・日野原重明:POS―医療と医学教育の革新のための新しいシステム.医学書院,1973.
高林 克日己 「Problem solving~臨床現場の問題/課題解決(problem solving)に関する方法論やツールを再考する~」日本内科学会雑誌106巻12号

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